第3話 「大音量のリサイクルショップ」
K君が友人から誘われて小さなリサイクルショップに勤める事になった時の事。
出勤当日、店の前まで行くと妙な光景が目に入ってきた。
ドア脇の壁に子供が手を顔の前に伏せながらこちらに背を向けて貼りついていたのだ。その恰好はかくれんぼや鬼ごっこの鬼になった子供が他の子供たちが逃げる時間を作る為に数を数えるポーズといえば想像がつくだろうか。
K君はそれを見て(子供が遊んでいるのかな)と想ったが、近づいてよくよく見てみるとそれは人形だった。
髪はクルクルとクセが付き、茶掛かった色をしている。服装はオーバーオールにオレンジのシャツ。手が重ねてあるため見にくいが、顔はそばかすが付いた外国人の男の子の様だ。
後で聞いたところによると、これも店の売り物の内の一つだった。ただ、等身大の男の子の人形という性質上、なかなか売れるものではない。
でも、それなりに人目を引くものではある。だから、晴れの日などはあの様に表に出してディスプレイしておき、夕方になると店に引き入れることにしたそうだ。いわば看板変わり、マスコットの扱いをしているのである。
その時はそんな事情も知らず、少し首を傾げながら店の扉を開けたK君に二度目の違和感が襲った。
それほど広くない店内。BGMとしてクラッシックミュージックが掛かっているのだがその音量が尋常じゃなくデカい。下手すると通常の会話に支障をきたすのではないかというレベルだという。
ただ、そのお店は一階が商品を置いているショップになっており、五十代の女性Aさんが一人で接客対応をしていた。対して、K君の業務は二階のネット販売を扱う業務であった為1階の業務には殆ど携わらない。だから、その時は少し違和感を抱いたものの、すぐにその事は忘れて新たな職場での仕事を覚えるのに追われていった。
しかし、段々仕事に慣れていくにつれて、心に余裕が出てくる。未だに一階の店舗で流れるBGMは大音量のままだ。流石に気になり、Aさんに事情を聴いた。
「このBGMちょっと音量大きくないですか? なんでこんなに大きな音を流しているんです?」
すると、Aさんは「こんな事をいっても信じて貰えないかもしれないけど」といいつつこんな話をしてくれたという。
夕方になると、店内に子供の声が聞こえる事があるという。でも、自分以外に誰もいないし、外を見ても子供の姿などはない。
「明らかに人はいない筈なのに小さな声だけど、こどもが喋っているのがはっきり聞こえるの。でも、何を話しているのかは分からないし、どこからかも分からない。それが余りに不気味で。それが聞こえない様にBGMを大きくかけるようにしたのよ」
そんな返答を聞いてK君も不思議なことがあるものだなと想ったという。
それから、また暫くしたある日。同僚の友人から「ちょっと変な事があってさ」と声をかけられた。話を聞いてみるとこうだ。
そのリサイクルショップの一階店舗ではジュエリーなどの貴金属類、高価なものも扱っており、セキュリティにはお金をかけていた。
店のドアにはセキュリティシステムが付けられており、閉店後、最後の店員が店を出る際、システムのスイッチをオンにする。それ以降、誰かが無断侵入したら警報が鳴り、即警備員が駆け付けてくる訳だ。
また、店内四隅にはそれぞれ監視カメラがセットしてあった。そのカメラの映像は2偕にあるモニターにつながっており、その内容はハードディスクに録画される。
友人はその内容をチェックする役目を担っていたのだが、映像に不自然な内容が映し出されていたという。
モニターに表示する方法としては、四台のカメラを分割して全て並べる分割方式と、それぞれ一台のカメラが撮影している内容を数秒映して、次のカメラ、また数秒写して次のカメラという形の切り替え方式の二種類があり、ここでは切り替え方式を採用していた。
仮に、四台をそれぞれABCDとしよう。A→B→C→Dと切り替わりまたAに戻るを繰り返しているのだが。
Aのカメラすぐ真下にかの子供人形が写っている。数秒してBに切り替わり店舗内の別角度の映像が映し出される。更に→C→Dと切り替わりAに戻る。しかし、そこに人形の姿がないというのだ。そして、B→C→Dと切り替わる中でCの所に人形が写り込んでいる。
更に、切り替わりが進むにつれて、Aの場所に戻ったり、Bにあったり、Dにあったりと人形が移動していくという。
でも、セキュリティが厳重な店内には誰もいない筈なのだ。よしんばいたとしてもカメラの切り替わり時間はほんの数秒の事。しかも子供一人分くらいある大きさの人形を抱えて移動させるのはほぼ不可能に近いだろう。
となると、どういうことになるのか。人形が一人でに動いたということになるのではないか。つまりあれは魂を持った生き人形とでもいうべきものなのではないか。
そう考えた時、K君は更に一つの事に思い至った。
人形は昼間の間外に出しておき夕方近くなると店内に引き入れるのだ。この事実を一階に勤めるAさんが言っていた「夕方近くなると、人は誰もいないのにどこからともなく子供の声が聞こえる」という言葉と合わせれば結論は見えてくる。
誰も人はいなかった。いないのは当然だろう。きっとそれは人形が喋っていたに違いないのだから。
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