第4話 「夜の水族館で遊びまわる少年」
第2話「ガンゴンと鳴る音の正体は?」の話をしてくれたKさんから聞いた水族館の話をもう一つ。
その水族館の呼び物として超巨大水槽というものがあったそうです。大小さまざまな魚やサメ等を一つに飼育しており三階の一番端にある廊下全体から中が覗けるという物でした。
建物自体は五階建てとなっており、巨大な水槽プールがその側面にベタ付けになっていると言えば想像できるでしょうか。
そして五階にある入り口からそのプールの一番上の部分、プールサイドのヘリに当たる場所へ出られるようになっており、職員が管理の為に使っていました。
更にそのプールサイドの部分には砂が敷き詰めてありました。出入りした担当者は業務終了後にその砂地を馴らして整地します。
ところがたまに朝、職員が出勤してプールにやってくると、その砂地に小さな子供の足跡が残っている事があるそうなのです。でも、これはおかしい。
整地しているのに足跡が残っている事もそうですが、子供の足跡というのがそもそもおかしいのです。
その場所は関係者以外立ち入り禁止の筈。子供が入れる場所ではありません。
しかも出入口は一方通行です。
もし、万が一子供が入り込んで来たとしましょう。足跡は入り口からやってきて砂地に跡を残して、また入り口に戻る。という付き方でなければならない筈なのです。
でも、その足跡は砂地の真ん中あたりに突然付いているのです。
そして、ちょこまかと蛇行するようにプールの方に向かって点々と続き、ヘリの所で終わっているのです。そこから先は超巨大水槽の中。水の中に入っても逃げ場はありません。
となると状況を想像するに、その子供は突然砂地の真ん中に現れてそして水槽の方に向かって行って消えたという事になってしまいます。何れにせよ不思議な現象としか言いようがありません。
この現象は度々発生して職員の間では噂になりました。でも一体その子供は何者なのか。何故このような事が起きたのかは誰にもわかりませんでした。
そんな事が続いていたある日の事。Kさんが水族館の閉園後に締め作業をすることになりました。
その建物は五階に駐車場があり、一階と五階両方に出入り口があります。締めの作業は二人一組でやる事になっていました。
一人は下から。もう一人は上から。お互いに作業をしていく。そして、巨大水槽が見える三階の廊下両脇にあるシャッターを下ろして閉鎖するというという手順だったそうです。
Kさんは五階から作業を始めました。順調に進めて行って四階の端近くまで来ました。腰をかがめて作業をしていると、トンと突然腰のあたりに何かあたった感触がしました。
何だろうと想って後ろを振り向いてみるとそこに子供がいるのです。
でも、そんな筈はない。お客さんは全員帰っている筈です。子供が要る筈がない。でも、小学校低学年くらいの男の子が居る。
呆気にとられている自分を後目にその子供は廊下の端、階段に向かって走っていきます。
流石に放ってはおけません。すぐに後を追いかけましたが、子供はそのまま階段を下りていき姿が見えなくなりました。すぐに彼も後を追う為に階段を降りようとしましたが、階段の下を見た途端に、
「え!」
思わず驚きの声を上げてしまいました。
そこにはシャッターが下りてそこから先には降りられなくなっていたのです。。恐らく相勤者が締めたのでしょう。
でも、おかしい。だって、今の今、子供が下りて行ったのを見たのです。
不審に思いながらもシャッターを開けて三階のフロアへ降りました。
「どうしたんだよ?」
相勤者がいて不思議そうな顔を向けてきます。
「いや、実はさ。子供がいたんだよ。今下に降りてきたはずなんだけど見なかった?」
Kさんは尋ねますが、
「こんな時間に子供がいる訳ないだろう」
と当たり前の返事が返ってきます。
「いや、それは分かるけど。居たんだよ」
事情を説明すると相勤者も放っておけないと想ったのか、じゃあ中を探そうという話になりました。
でも、結局子供の姿は見えません。
Kさんは途方に暮れながら又三階の廊下に戻りました。すると、窓から巨大水槽の一部が映し出されるのが目に入ってきました。
そこでKさんは「あ、そうか。そういう事なんだ」と気づきました。
あの男の子はきっとこの世の物ではないのだ。幽霊とかそういう存在なんだと。
そして、この巨大水槽の真上。プールのヘリの部分の砂地に足跡を残していたのもあの男の子なんだろうと。
あの子は水族館が終わった後、誰も居なくなったこの施設の中をああして、走り回ったり、砂地に足跡を残したりして一人遊んでいるんだな。
そんな事を想ったら怖いというより何だか酷く寂しい気持ちになったそうです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます