第2話 起動

 「ああ、空気が美味い」


 意識が戻ると、一糸纏わぬ姿でただっ広い草原に横たわっていた。

 手が動く、脚も動く、なんといっても髪の毛がある。


 今の状況をすんなり受け入れられているのは意外だが、不思議と戸惑いは無かった。


 辺りを見渡す限り、空飛ぶ見た事の無い生き物や、ゲームに出てくるようなスライムなど、ここが日本では無いことは確かだ。


 これは生まれ変わりでは無く、俗に言う異世界転生なのでは?

 などと考えてみたりしたが、この雄大な景色を目の当たりにしたら、そんな細かいことはどうでも良くなってしまった。


 「とりあえず、近くに町や村はあるのか…だな。」


 まあ、例え人里があったとしても、人種や言葉などまだ不明な点もあるし、まずこの一糸纏わぬ姿では何かと誤解を生むだろう。


 しかしどうだ、生まれ変わる前の身体とはまるで別人だ。

 深くまで刻み込む筋肉のカット、見事なシックスパック、触っただけでも分かる整った顔。そして凶器のような息子…。


 「うーん…パーフェクツ」


 とりあえず行動しようと思ったが、どのような危険が潜んでいるか分からないので迂闊に動くことができない。


 「ここで死んだらどうなる…?」


 仮想空間でも妄想でも無く、これが現実だと思うと、あの時の記憶が、恐怖が込み上げてくる。


 まずは自分の強さがどのくらいなのかを確かめる必要がある。

 せっかくの命だ、賢く生きようじゃないか。



 「スライムしかいないな…」


 緑、青、赤色などドロッとした生き物がそこらかしこで徘徊している。多分スライムだとは思うが能力や生態などは一切不明だ。


 足元に転がっていた木の枝を拾いあげ、ゆっくりと近くにいたスライムに近づき、思いっきりぶっ叩いた。

 木の枝がスライムに触れたように見えた瞬間、ものすごい衝撃波と共に爆発音が身体にビリビリと走った。


 「…つ…え、何…?」


 土煙りがもうもうと立ち込める先には、爆発地点から一直線に地面が十数メートル割れていた。

 スライムも、持っていた木の枝さえも跡形も無い。


 呆然と立ちすくんでいたが、我に返ると自分の心臓の部分に、紋章のような刻印が浮き出て発光しているのに気づいた。


 「なんだこれ…?」


 刻印の発光と同期するように高鳴っている心臓。

 身体中に感じるものすごい力。

 これが自分の能力なのかと思うと興奮してしまう。


 階段を昇る時の膝の痛み、デスクワークによる腰痛。どこから臭うのか分からない加齢臭。そんなものとは無縁に思えるこの身体。

 控えめに言って最高だ。


 『プログラム起動確認、不明なエラー確認、これよりアシスト機能を開始致します』


 なんだ、またあの声だ。

 声がするというより、意識の中に直接響くようで気持ち悪い。


 「おい、あんた誰だ?聞こえてるのか?」


 『声紋認証完了。はい、聞こえます』


 声は問いに答えた。

 

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