そのサラリーマン異世界最強ににつき

ほっけのひらき

第1話 再起

 四十代前半、役職無し、気付けば窓際。


 何をするでも無く、ただ毎日同じように暮らしているだけ。


 後輩社員や同僚たちからは、見た目がハゲていることから“部長”なんて愛称で呼ばれている。

 こっちからしてみれば迷惑極まりない。

 そして、年末の締めの真っ只中である社内は慌しく、毎日のデスクワークで疲労が溜まりに溜まっている。


 断れない性格の私は大量に重なる決算の書類の山に押し潰されそうになっていた。


 「もう1時過ぎか…今日はさすがにここまでだな」


 終電も過ぎ、ここ三日ほど徹夜をしていためか、疲れはピークに達していた。

 社内の仮眠室で泊まろうと椅子を立ち上がったその時。


 胸に想像を絶する痛みが走った。

 痛みと言うより焼けるような熱さに息が出来ず、その場に倒れこんでしまった。


 「…おっ、あ…っ…はっはっ…ぐっ」


 額から噴き出る汗と涙、息が出来ずに口からから垂れる涎。

 次第に身体が痙攣を起こし、意識が朦朧としてきた。


 死ぬ。


 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ー…


 テレビを消した時のように、プツっと何かが途切れた。


 ああ…死んだ。




 

 死んだ?

 死んだのか?

 死んでも死んだと分かるのか?

 これが死後の意識なのか?


 真っ暗で何も見えない。

 手も足も何処に何があるのか分からない。

 脳だけがここにある感じだ。


 約二十年サラリーマンとして汗水流して働いた結果が過労死。

 なんとも言えない人生だな。

 昇進も、家庭すら築くことさえも無く、年が終わるというときに人生を終えた。

 まあ、このままでも何も変わらない人生だっただろう。

 会社には迷惑をかけるが、致し方ない。

次の人生は沢山の人に尊敬され、強くて頼り甲斐のある男に生まれたいな。


 これは高望みしすぎだろうか…


 『了解。再起プログラムを再構築します』


 突如、暗闇に似つかわしくない機械のような声が響いた。

 再起プログラム?

 一体何が?


 『世界軸の再修正に伴い、骨格、容姿、欠損人格の付加、異能力の付加、生体の再構築を大幅に変更します』


 何が起きているのか分からないまま、意識に刺さるような声は響き渡る。


 『座標確認及び登録完了、再構築完了、修正プログラムエラー無し、生体の再構築完了、未確認エラー一件有り、問題無しと見なす』


 刹那、ひときわ大きな音が鳴った。

 自分の心臓が脈打つ音だ。

 心臓の音は次第に大きさを増し、暗闇は眩い光に包まれた。



 『再起動完了』


 その言葉と共に、またしても意識が遠のいた。

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