2-2
「私に聞きたいこと、あるよね」
不意のネイの言葉に、はっと顔を上げる。微笑むネイの、沈んだ色の瞳が、ラッセを静かに見つめていた。
「でも、今は、……少しだけ待って欲しい」
そう言うと、ネイは一動作でラッセに地図を押し付け、粗末な梯子を下りた。どうしたというのだろう? 唐突なネイの行動に身体が止まってしまう。だが、しばらくして耳に響いてきた泣き声に、ラッセは心の中で手をぽんと叩いた。この泣き声は、……イーアのものだ。
ラッセの予想通り、顔を真っ赤にしたイーアを抱きかかえたネイが、粗末な梯子を器用に登ってくる。そのイーアを、教王の都の尖塔がよく見える場所に座らせると、ネイは俯くイーアの横に腰を下ろした。
「また、ザインと喧嘩した?」
ネイの言葉に、イーアが頷く。
喧嘩の原因は、ラッセも知っている。ネイと一緒に旅をしていた時と同じようにザインに甘えるイーアを、ザインはきっぱりと拒絶している。ザインの気持ちは、分かるつもりだ。子供さらいに捕らえられてからずっと、ザインはイーアの保護者代わりだった。だが、ザインとイーアは同い年。旅の間、ザインも本当は誰かに甘えたいと思っていたのだろう。それが、両親の許に戻った時に爆発した。それだけだ。父がいないと不安だったラッセ自身の子供の頃を思い出し、ラッセはザインに同情した。
「ザインだって、イーアと同じくらい、誰かに甘えたいとずっと思ってたんだ」
ラッセの理解と同じ言葉を、ネイが紡ぐ。
「だから、しばらくは、今度はイーアが我慢する番」
諭すネイの声に、イーアが渋々頷くのが見えた。
「留め金、持ってるよね、イーア」
ネイの言葉に、イーアが服のポケットから羽を模した留め金をそっと取り出す。銀鉄の国の騎士達が身に着けていたという銀色が、黄色みを帯びた日の光にきらりと光った。
「その留め金はね、イーア、騎士が独り立ちできるようになったという証なんだ」
もちろん、仲間の騎士が窮地に陥っていれば助け合う。だが、銀鉄の国の騎士は基本、独りで、騎士としての全ての職務に立ち向かわなければならない。それができるという証が、羽を模した留め金。ネイの言葉に分からない顔をして頷いたイーアを見て、ラッセも分からないながら独り、頷いた。
その時。
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