1-7
再び、ラッセが目を覚ました時には、馬車は既に揺れていなかった。
「ザイン、イーア、食事の支度を手伝って」
明るいネイの声と、その声に反応して急に空虚になった腹の辺りに、ふっと息を吐く。身体は、まだ、気怠い。だが左腕の熱は、もうそんなに酷くない。起きた方が良いだろうか? 横になったまま、ラッセは少しずつ暗くなっていく幌の色を眺めた。
「今日こそ、剣の技、教えろ、ネイ」
そのラッセの耳に、昨日と同じギードの声が入ってくる。
「剣術も良いけど、弓の方が役に立つと思う」
そのギードに答えるネイの声と、おそらくザインかイーアが練習しているのであろう弓を引く音が、ラッセの耳に同時に響いた。
「剣は、相手に近付かないと殺せない。けど、……弓なら、子供でも大人を殺すことができる」
続いて響いた、あくまで冷徹な、ネイの声も。
そのまま、うとうとと目を閉じる。
「……大丈夫か、ラッセ?」
すぐ側でネイの声が聞こえてやっと、ラッセは目を覚ました。
「食べられるか?」
抱かれるように起こされた上半身に、昨日と同じ大振りのコップが差し出される。そのコップの中の、少し黒っぽいスープの匂いに、脇腹の辺りがぎゅっと痛くなった。食欲は、無い。しかし食べないと、元気にならない。幼い頃、熱を出したラッセに父が言った言葉を思い出し、ラッセは受け取ったコップの中のスープを半ば無理矢理飲み干した。
「大丈夫そうだな」
続いて水の入ったコップを差し出したネイが、ベルトに配したポーチから小さな容器を取り出す。その容器から出した、ネイの短い人差し指に乗るほどの小さな白い粒を、ネイは水を飲み干したラッセの唇に乗せた。
「飲んで。ただの、熱冷ましの薬だから」
口の中に落ちた小さな粒は、飲み込む前に溶け消える。ネイの手を借りて再び横になったラッセの腹の辺りに、再びイーアがうずくまった。
「留め金、ラッセに返してあげなさい、イーア」
うとうとするラッセの耳に、優しく諭すネイの声が響く。
「留め金なら、私のをあげるから」
喜びの声を上げたイーアに釣られるように、ラッセも小さく口の端を上げた。
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