21 利害の一致
「俺もまあ、貴女と結婚はしたくないのです」
「私とは? 嫌われたものね」
ふふ、と彼女は笑った。
「いいえ、貴女は好ましい女性だと思います。ただ俺は化粧する女はともかく駄目なんです。だから化粧しない女と、内々に結婚を誓っているんです」
「居ました、ではないのですね」
「ええ」
更に彼女の笑顔が濃くなる。
実に愉快だ、とばかりに。
「では如何致します? 仮面夫婦と愛人? それとも?」
「貴女は頭の回転の良い方だ」
俺は四阿のベンチに彼女を誘った。
できるだけ近づいて、小声で話したい、と思ったからだ。
「俺は子爵家からそのうち逃げるつもりです」
「あら、わざわざ婚約させておいて? それじゃあ貴方、婚約破棄をやらかす気ね。するとうちはそちらに多額の慰謝料を請求するわよ、いいの?」
「そこが狙いなんです」
「狙い? 面白い話ね」
彼女は身を乗り出してきた。
「それに、私も二度縁談が駄目になったなら、さすがに結婚しない理由にできるわ。でも何故? 共犯者に私を選ぶなら、もう少し理由を聞きたいわ」
そこで俺は、自分の生まれと、子爵夫人や祖母が母にしたことを告げた。
小声の話は、彼女の表情を様々に変えた。
「俺はこの家を、養父母を憎んでいるんですよ。俺だけじゃない。実の父も、母方の親戚も。身分どうのを思うのは自由だけど、それだからと言って母にあの様なことをしていいはずが無い」
「そうね。それじゃあ下手に私が嫁いだりしたら、子爵夫人は私にも気に食わないことがあれば何かしら盛る可能性はあるわね。おお、こわ」
彼女はぶるっと身体を震わせた。
「ええ。まあその点も含め、俺はこの養父母に思い知らせた上で、遠くに彼女といこうと思います」
「その彼女とは話はついているの? 立場上の婚約をしなくてはならない、ということを」
「ええ。彼女の実家とも。豪胆な一家なんですよ。いっそこの件が片付いたら、そちら同士でお付き合いなさるのもいいかもしれない」
「では私達がすることは一択ということね」
「ええ」
俺は大きくうなづいた。
*
それから半年後、俺とアラミューサ嬢との婚約披露バーティが開かれることとなった。
ひとまず戻った俺は、何事も無い様に子爵夫人の求めるいい息子の顔をして過ごした。
前日には、子爵家の屋敷全体に招待状を出した多くの客が馬車で乗り付けてきた。
子爵夫人は、ここぞとばかりに上の爵位の嫁を迎えることに浮かれていた。
そんな午後、子爵夫人から俺はお茶に付き合う様に言われた。
「父上はよろしいのですか?」
「まだ戻らないですからね。全くもって貴方は立派な青年に育ってくれましたよ」
ありがとうございます、と言いながら俺は、ポケットの中の小瓶にさりげなく手を伸ばした。
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