20 「婚約者」アラミューサ嬢

 さてそれから少しあって、アラミューサ嬢と俺との婚約が整った。

 このアラミューサ・レント伯爵令嬢というのは、俺より三つ上。

 上のきょうだい達の結婚を見ているうちに、結婚そのものに対し嫌になっていたらしい。

 そして俺はまだこの時点で学校に行っている十代。

 実際の結婚は学校の課程を卒業してから、ということになった。

 なのでここからまだ数年の猶予があるということになる。

 ところでこのアラミューサ嬢。

 二人だけで話す機会という奴を親の側はあれこれ作ってくれた。

 そこで彼女と話したのだが。


「何で結婚が嫌なのですか?」

「うちの、レント伯爵家はともかく品位が無いのです」

「それを言ったら、俺の実の親の男爵家も無いですよ」

「貴方のことは調べされていただきました、アルゲート様」

「どのくらいですか?」

「実の父上が医師をされていること、実の母上が気を病んだ末に亡くなり、その後子爵家の養子となったこと。現在は学校の方では医師になるべく勉強していること――そして、医師の方を中心にしていることを、子爵家には黙っていること、ですか」

「成る程」


 俺は肩をすくめた。


「では貴女はそんな俺をどう思いますか?」

「少なくとも子爵家の言いなりになる方の様には思えませんが」

「実はそうなんです」


 ストレートに言ってみる。


「俺は俺で、貴女の伯爵家のことを調べさせていただきました」

「あら、如何でした?」

「五人のきょうだいを、跡取りの方以外、それぞれ実にするりと上手くあちこちの裕福な子爵家に入れているなあ、と。この裕福な、というのがポイントでしょう?」

「はい。何せうちの家には爵位くらいしか今は残っておりませんので」

「そして貴女も、俺との婚約の目的はそれですね」

「私の、ではありませんのよ。うちの、です」

「ああそうでしたね。貴女は結婚自体したくないと」

「子供が嫌いなのです」


 淡々と彼女は言った。


「珍しいですね」

「珍しいでしょうか。実際のところ、令夫人とよばれる方々も結構自分で子供の世話をするのはごめんだ、ということが多いのではないでしょうか? 私は生まれつき音に敏感で、あの泣き声が聞こえると頭がおかしくなりそうなんです」

「それは確かに大変だ。やわらかい綿の耳栓を常にしていた方がいいのかもしれない」


 くす、と彼女は笑った。


「いや、実際音に弱い人は居ます。そういう人が延々嫌な音を聞かされ続けるというのは拷問ですよ」

「そう言ってくれる人は初めてです。お愛想でも嬉しいですわ」

「愛想ではなく事実として、なんですよ。俺は医師志望ですから」

「そこなんですが」


 彼女は声を潜めた。


「実際のところ、貴方はどうしたいのですか? アルゲート様」

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