10 母と姉には反対されていた結婚

「そもそも母と姉には反対されていた結婚だったんだ」


 俺は辺りを見回し、適当な椅子を持ってくると父の前に座った。


「茶の一つも出してやれなくて悪いな。そこの棚に一式あるから、もし欲しかったら自分で淹れてくれ」

「父さんは今は」

「食事以外は自分でやっている。さすがに食事ばかりは作れないし、いつ摂れるか判らないから、隣の人に頼んで運んできてもらっている。それでも茶やコーヒーくらいは自分で淹れるぞ」

「俺も、そのくらいは寮や友人の家で覚えました」

「いい友達を持つのは良いことだ。……もし私にもそんな友が居たなら――いや、今言っても詮無いことだ。そもそも、医師になること自体お前の祖父母、特に祖母は反対だった。普通に男爵家の領地の管理をすればいい、と言うばかりで。だが私は社交が嫌いだった。どうにもあれは性に合わない。この家はそもそもそこまで他の家との交流を深める必要性はなかった。既に姉が子爵家に嫁いでいたからな」

「子爵家は――」

「あれは、エルダの勝利というところだ。私とは全く違う。あれは権力志向が強い。だからこそ、男爵でも爵位なしの実業家でもなく、子爵家を狙ったんだ。ところが自身で産んだのは、出来の悪い娘二人ときた」


 ネイリアとトラディアだ。

 確かに昔から胸糞悪い二人だった。

 正直、学校で女の話に混じることができないのも、彼奴らのせいだった。

 蹴られたりのし掛かられた時の彼奴らの小便臭い下着の臭いまで思い出してしまいそうだ。

 おかげで下手な化粧臭い女とは距離が置けて、ただただ話したり手紙だけでも気が合う気楽なサリーに出会えたのは良かったが。


「あの二人も結婚したそうですよ」

「まあするだろうな。姉はお前を跡取りにしたとしても、娘の婚期が遅れることだけは気にしたろうしな」

「俺は彼奴らがよく結婚できたと思いますよ」

「女は化けるよ。でもメアリはそうじゃなかった」

「母さんはそうじゃなかった?」

「看護人など、そうそう取り繕ってちゃできない仕事だ。時には私にも叱咤激励することもあった…… が」


 父は言葉を切った。


「父は結婚を許した。私の気性を知っても居るし、良き伴侶だと思ったのだろう。社交嫌いだがこの様に領地の皆の健康を守る仕事をすることはできる。領地を継ぐ者としてならそれで良いと思ったのだろう。だが母と姉は違った。息子を、弟を獲った女がたかが看護人なんて、と思ったのだろう」

「母さんはどんなことをされたのですか?」

「まず実家のことだな。そこからちくちくと常に嫌味を言われた」

「実家?」

「一応あれの実家も準男爵なのだ。ただ、親が碌でなし過ぎたので、メアリも、他のきょうだいも――そう、きょうだいが居るんだ。お前にとって母方には伯父と伯母と叔母の三人が居る」

「そうなんですか……」

「彼等とメアリはある程度連絡を取っていた様だ」

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