11 母のきょうだい達について

「でも俺にはその事は」

「伝える前に私がしばらく使い物にならなくなっていた。本当に済まない」


 父は深く頭を下げた。


「そのひと達に俺が連絡を取ることはできるんですか」

「取れないことは無いんだが、三人三様の場所に居てな…… メアリが亡くなったということで乗り込んできた。そして自分達で葬る、と言って遺体を…… 持っていってしまった」

「何だって」


 そんなことが――できるのか? 


「私は止めた。無論。だが母と姉がこう言った。『どうぞどうぞ』『その女をうちの墓に入れるなんてまっぴらですから』『無縁墓地に入れようかと思ったくらいだし』」


 ぎり、と父は歯噛みした。


「私はその頃、メアリの看病で疲れ切っていた上に、彼女を亡くしてしまったことで、もう動く気力が無かった。そこに現れた彼女の親族だ。母と姉の言葉だ。まだうちよりましな埋葬をしてくれるだろう、と私は思った」

「じゃあ母さんの墓は今は」

「場所だけは教えてくれた」


 ちょっと待て、と机の引き出しを開き、飾り気の無いはの場所には不似合いな程の美しい小箱を出した。

 開くと、その中には古い手紙の束、指輪の箱、そして慌てて切り取った様なメモがあった。

 そのメモを開くと、父はレターペーパーを一枚取り出し、内容を書き写した。


「ここだ」

「え」


 さらりと父は言ったが、その場所はずいぶんと遠い。


「……これ、辺境伯領じゃないか!」

「ああそうだ。メアリの実家ネルフィル家――彼女の両親は、自分の子等に対し、酷い仕打ちをしていたらしい。そこできょうだい揃って家を飛び出し、更にその後見つからない様にばらばらの土地で過ごしたらしい」

「それじゃ看護人をしていたというのは」

「生きて行くための手段として、身につけた技だ。私もメアリの過去については求婚するまで聞いたことが無かった」

「では突然」

「そう突然。彼等は芯から怒りに満ちていた。そして長男の住む土地にある墓地に新たに墓を作ったということだ」

「――ってことは、墓参りに行けば、俺にとっての母方の伯父さんに会えるということですか」

「ああ」

「父さんは行ったことは」


 黙って父は首を横に振った。


「衰弱した遺体を見た彼等はそこまでさせてしまった私を許さないだろう。だがお前なら。メアリの忘れ形見だからな」

「行きます」


 俺はレターペーパーをきっかり折ると、愛用の手帳に挟んだ。

 後でそちらにも書き写そう。


「そう、話が飛んだな。嫌味やら何やらを言われたのは初めだけか。まあそれだけだったらまだ良かった。今の様に、私達は領地の住人の診察に共に出かけていたからな。ただ次第に彼女の様子がおかしくなってきた。それは単に嫌味とかのせいじゃない」

「……と言うと」

「幻覚やせん妄を引き起こす薬物を少しずつ、彼女の食物に入れられる様になっていた」

「!」 

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