第3話 ストーリー完結後の世界では、悪役令嬢はやっぱり報いを受けるようです。
クラス分けは見事に他の方々と別れてしまった。
レオパルドはわかっていたらしく、それであんなことを言ったらしい。
クラスで一人なんて嫌ね。友達でも作ってみましょう。見渡した感じ、全員貴族だ。なんというか、まとっているオーラが違うのですぐわかってしまう。
ゲームでキラキラしてたのって、実際みるとこんな感じなんだなぁ。すっげえ。
「ウォレット・ヴァレンタインよ。あなたは?」
「え?! あ、あ、……です」
隣の席に座っていた青い髪の毛の子に話しかけた。胸元のエンブレムには黒い線が3本。私の記憶が正しければ、この子は同じ貴族身分の人間だ。
これなら話しかけられると思い、声をかけた次第である。
「聞こえなかったわ」
「すいません! ビノル・エクレアです……」
なんでこんなおどおどしてるんだろう?
思い切って聞いてみることにした。
「そ、それは……あなた方は、学園の不可侵領域だからです……」
「不可侵領域?」
「あなた方は、この特別な学園でもさらに特別な存在なのです……」
あぁ、思い出してきたかも……
そういえばそうだった。ゲームの冒頭でちょっと書かれてたっけ。『平民と特別な人たちの恋物語』とかなんとか。
ちなみに平民とは、リエールのことである。実際は平民でもなんでもなく、この学園の中では平凡な貴族ってだけである。
「あなた、友達になってくれる?」
「私とですか!? そ、そんな! 恐れ多いです……」と、謙遜するビノルを強引に説得し、初友達をゲットした。いえい。
悪役令嬢なので、めちゃくちゃ嫌われてると思っていたが、どうやらそういうわけではないらしい。
この魔道特別クラスにおいては、むしろ尊敬されている気がする。
いじめられたらどうしようとか思ってたけど、これはなかなかいいスタートを切れたわね! 他人の、しかも心底嫌いな人間の悪行のせいで私がいじめられるとか、まじ最悪だもんね!!
場所を移して校庭へ。まずは各々の実力を測るということで、私は人形から数十メートル離れた所に立っていた。
「が……頑張ってくだっ……がんばれ……」
新しくできた友達も応援してくれている!
魔法の使い方など知らないので、前世の記憶を頼りにちょっとやってみた。
「我が身に宿し不朽の僕たちよ、理不尽の暴虐を帯びて顕現せよ!! デュビュラ・ラ・ドローゼ!!」
決まったわ。一瞬当たりが紫色の光に覆われ、その光が密度を上げながら人形に集中。漆黒の球となり、静寂の中、人形を地面ごと消滅させていた。
早速、格の違いを見せてしまったようね!!
「……レベルが違う……あんな魔法見たことない……」
「ふふん。褒められるのは悪くないわね! あら、次はビノルの番じゃない」
「私なんて大したことないです……じゃなくてない。」
「うんうん。敬語はダメだからね! 全力で頑張っておいで!」
背中越しに返事をすると、ザッと肩幅に足を開き、構える。
手から光が溢れだす。次の瞬間、熱風が吹き荒れ、直径30センチくらいの火の玉が発射された。
「あんたもなかなかやるじゃない?」
「次は当てます……じゃないあてる。」
ビノルが息を切らしながらいう。魔法ってこんなに疲れるものなのね。私はピンピンしてるけど。
「ちょっとやってみていいかしら?」
「何を?」と言うビノルにウィンクし、私は片手を突き出した。
爆風が周囲の生徒を押し倒し、収まる頃には人形のあった当たりに隕石でも落ちたかのような穴がポッカリと開いていた。
「ふーん。まあ、こんなものね」
ヴァレンタインのことを昔から知っているものは、「あいかわらずとんでもない方だ」と、知らないものは「な、何者ですかあのお方は……」と驚いていた。
「……悔しい、でも、精度では負けないから」
ビノルがちょっとだけ口を曲げている。
「望むところね?」
次の試験は、小さな球を操作し、細い道を通すというものだった。
こんなもの余裕だろうと思っていたが、これがなかなか難しい。ちょっと浮かそうとするだけで動きすぎるのだ。その度に壁に当たってスタート地点に戻っていた。
「い、イライラするわ……楽しいけど! て、ビノル! あんたもう終わったの!?」
「ヴァレンタインはまだスタート地点なんだ?」
「流石にこれは負けを認め……」
「ふふ、私の勝ち」
「るなんていうと思った? 私は負けず嫌いなの! こんなもの、こうよ!」
私は球にバリアを張った。
「……え!?」
「見てなさい! はあ!!」
「!?」
球はとんでもない速度で移動を始め、壁を破壊しながら、ゴールまでを最短距離で突破した。
「ふふふふ、多分私が世界記録更新ね」
「やりますねヴァレンタインさん。あなたの記録は0.8秒、ちなみに世界記録は13.2秒です」
最初の魔法あたりから近くで見ていた担任のシュトーラ・フィナンシェが、話しかけてきた。
「おーほほほ! それ見なさい! ビノル! 世界記録更新ですわ〜!!」
「当然失格ですよ」
「ま、ヴァレンタインに繊細さなんてかけらもないことがわかったね」
世界記録更新とはいかなかったが、程よく自己掲示欲が満たされたので良しとする。
「よくあんなこと思いつくね」
「当然よ! あんたの記録もすぐに抜くから慢心しないことね」
「望むところ!」
教室に戻る途中の道、ビノルとそんな会話をしていると。
教室の前に走り込み、私の名前を叫ぶレオパルドの姿が目に入った。
「レオパルド? まだ学校終わってないわよ?」
「おじょ、ヴァレン!! 大変です……」
記憶を取り戻してから数日。悪役令嬢とは言え、ゲームの世界に転生し、さらに金持ちの家に生まれ、イケメンに愛されまくり、当人はチートレベルの魔法を使えるまさに超イージーモード。
前世とは違い、完璧な勝ち組人生を歩むのだと思っていた。
だが、私はこの時まで全く誤解していたらしい。
ストーリー完結後の悪役令嬢として生きるということが、何を意味するのかを。
私は、人生史上最も最悪だった『悪役令嬢』の後の人生を、何の罪もないのに歩んでいくことになってしまったのだ。
「え……? これ、夢…………?」
悪役令嬢に転生したけど、ストーリー完結後でした @サブまる @sabumaru
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