第2話 推しキャラに嫌われているようです。

 前世の記憶を取り戻してからというもの、私はずーっとワクワクしっぱなしだった。


 お家の探索とか、庭の探索とか、こちらで出てくる料理とか、ゲームでは見ることのなかった貴族たちの生活とか。


 でも、今日はもっとすごい。


 なんと長期休みが明け、今日から学園に通えることになっているのだ!


 待ちに待った学園生活。


 ゲームでは、ストーリーのほとんどが学園で展開されていた。


 と言うことは、攻略対象と初めて出会ったあの教室とか、文化祭を行った体育館とか、幾多の邪魔を押しのけて求婚することができた庭とか。


 あらゆる聖地をこの身で体感できるのだ!! ウヒョー!!


 しかも! 


「ヒロインや他のキャラたちにも会える! あぁ〜ニヤニヤが止まらない〜」


 ストーリー後の世界だと知った時は、もう学園にはいけないと思っていた。


 だって、ゲームは、卒業式の日に告白成功で、ストーリー完結だったし。


 しかし、私は知ったのだ。ゲーム内で卒業したのは中等部で、今日からエスカレーターで高等部に上がることを! 


「どうしましょうかしら? やっぱりニコニコ笑顔で? それとも、意地悪な悪役令嬢で?」

「ヴァレはいつも通りでいいと思いますよ」


 馬車で学校へ向かう道。呼び方を矯正したレオパルドが、クッソ優しい。


 そんなことを悩みながらついたのは、前世の記憶よりさらに豪華なお城のような施設だった。


「こ、これが……学校……でかい……」

「何をおっしゃいますか? 中等部と高等部、名前は変われど場所は同じですよ?」


 てか、登場人物って全員15歳とかそこらなのよね……? 信じらんないわ〜。前世で15歳の同級生とか猿しかいなかったわよ。


 冷静に、そして中の様子にいちいち興奮しつつ、クラス分けが行われるという会場に向かった。


「名残惜しいですが、ここでお別れですね……」

「なーに言ってんの。たった数分離れるだけでしょ」


 レオパルドはあいかわずのゾッコンぶりだ。あのヴァレンタインに向けられていると思うと、腹立たしくもある反面、その好意は私にも向いているのだから、嬉しくもある。ま! イケメンに愛されてるんだから嬉しい99、腹立つ1だけどね!


 さて、会場に来てみれば、水晶をズラーーっと並べた所に人々が並んでいた。

 クラス替えという制度は初めて知ったなぁ。こんなになってるんだ。


 確か、ゲームにも申し訳程度にファンタジー要素があったから、多分その力を測るんだ。


「ヴァレンタイン様っ!」


 案内された列に並んでいると、後ろから声がかかった。この声は!?


「リエール!! きゃあああああああ!!! 可愛いいいいいいい!!」

「お会いできて光栄ですっ!」


 カールがかった金色の髪に、私と同じくらいの身長、まるで小鳥のような可愛らしい声の持ち主。名前はリエール・マカロン。


 この子こそが、ゲームの主人公である!!


 こんっな純粋無垢であったら飛びついてくるような女の子をいじめるだなんて、マジでヴァレンタイン許せん。


 って、今の私か! しかも、飛びついたのは私なんだがな!


「おいヴァレンタイン。リエールから離れろ」


 この声はまさか!?


「ぎゃあああ!! オールヘッジ王子!! かかかか……あ、握手……してよろしいか……?!」


 まさかまさかだ。私が愛してやまない、何度ヴァレンタインに邪魔され、失敗しても、絶対に落としてやると心に誓い、何十時間も試行錯誤したのちにやっとの思いでルートを完結できたあの!!


 はひょーーー! 推しのオールヘッジ・ブリューレ様ああああ!


「なんだ貴様……急に人が変わったように……」


 そうそう、私は最初の出会いイベントで、この男らしく守ってくれる姿に一目惚れしたのよね……。その邪魔をしてきた相手はもちろんヴァレンタイン……って、私じゃね? 私もしかして……めっちゃ嫌われてる?


 確か、ヴァレタインとオールヘッジ王子の相関図で……『何度も何度も恋仲になることを邪魔した、ヴァレンタインを心底憎んでいる』って書いてた……。


「リエール、ヴァレンタインとの間には俺が入る。こいつをあまり信用するな」


 お、お、お!! なんて幸運!? まさかオールヘッジとこんなに近くに入れるなんてえええええ!!! でも、ちょっと複雑ね……。


 順番が訪れ、指示された通りに水晶に触れる。この後の展開は……


「す、素晴らしい……なんて数値だ……」

「戦術魔道士を軽く上回っておられる……」


 そう。ムカつくことに、ヴァレンタインは魔道においては右に出る者のいない超天才なのだ。

 嬉しいんだけど、なんか釈然としないわね……。


「ヴァレンタイン様はやっぱりすごい人です!!」


 リエールが跳ねる横で、めちゃくちゃ悔しそうにこちらを睨みつけてる私の推し。あぁ……そんな目で見ないでよ……こればかりは仕方ないじゃないの。抑えることなんてできないんだから……。

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