解決編


「警部、全く分からないですよ。犯人は誰なんですか?」

 部下は瞳をうるうるさせながら、私を見つめてきた。全く仕方が無い部下だ。

「いいかい、4人の目撃者の内、犯人を除いた3人はひとりの人物について述べていたんだ」

「一回犯人像を整理しても良いですか。緑の服を着た緑川さんの証言では、黄色い服を着た男性で、背は160cm以上。黄色い服を着た黄川田さんの証言では、青い服を着て背はあまり高くない人物。青い服を着た青柳さんの証言では、赤い服を着た背の高い男性。赤い服を着た赤松さんの証言では、緑の服を着た小柄な男性。もう、めちゃくちゃじゃないですか」

「確かに一見すると、バラバラだが、色に着目すると嘘つきが見えてくるのさ。話を聞いているときに違和感はなかったかい?」

「違和感ですか?そういえば、青柳さんは服の色について、ポストを指さしたけど赤色だったとは言っていなかったような。・・・・・・でもなんで?」

「それは、彼がさ」

 服の色が何色かはっきり分からなかったけれども、彼の中で見えているとおりの証言をしたのだろう。

「おそらく、青柳さんは先天的に色の見分けが付かないのだろう。色覚異常というやつだね。そういった人たちにとって、赤と緑は特に見分けが付きにくく、判別が困難だと言われている。青柳さんに改めて確認してみることをおすすめするよ」

「そうか、では青柳さんが色覚異常だったとするならば、彼が見た犯人の服は、緑色だった可能性があるってことになるのか。……まてよ、ということは?」

 緑色の信号機を、青信号と呼ぶように、緑色を青と呼ぶ人はお年寄りを中心に一定数いる。おそらく、黄川田さんもそうだった可能性が高い。

「ということは、4人中3人が服の色は緑だと証言していることになるから、嘘の証言をしている人物は、緑川さんしかいない。なるほどなあ。でも青柳さんは背の高い男性を犯人像としてあげていますよね。なのに緑川さんは小柄だったのはどうしてなんだろう?」

「青柳さんは、中学1年生で制服もぶかぶか。背は高くないだろう?」

「そうか、160cmってことになるのか」

 もしかしたら、自分よりは背が高いって意味で言ったのかも知れない。

「緑川さんが犯人かはまだ断定できないが、嘘の証言をしている可能性は極めて高い。緑川さんを最重要参考人として捜査を進めるぞ」



 その後の捜査で、緑川 たくみさんが犯人であることが明らかになった。

 動機は、大学で遊ぶための金ほしさという一切同情の余地がないものであった。警察に聞き込みをされた際にとっさに嘘をついたのだという。

「遊ぶ金欲しさに衝動的に犯罪に手を染めるなど、最近の男って奴はどうしようもないな」

「警部、その発言はジェンダーレスな時代的にアウトですよ」

「ふん、私よりも頼れる男が現れないのだから仕方が無いだろう」

「僕なんてどうですか?そうだ、事件解決のお祝いに食事でもどうです?」

「あんな証言の食い違いで右往左往しているようじゃまだまだだな」

 部下は、しゅんとした顔をしている。最近、こいつのこういう子犬のような姿を見ていると何故だか庇護欲がそそられるようになってしまった。

「ふっ、そんな落ち込むな。今夜くらいは付き合ってやるから」

「デートっすか?」

 パッと明るくなったその姿は、まるで尻尾を振っているようにも見える。

「バカ言ってんじゃないよ。ほら、まだ聞き込みが残ってるぞ」

 この部下とのデートにはどんな色の服を着ていこうか、なんて考えていることは絶対に気取られないようにしないとな。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

犯人の色はどんな色? 護武 倫太郎 @hirogobrin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ