次の日は、朝からひたすら山道を登った。昨日、色々考えてなかなか眠れなかったから少ししんどいが、大荷物を背負って歩いている春太を前に、そんな泣き言は言えなかった。

 春太は昨日、川の水や、森の中にある食べ物を一切使わなかった。きっとあの大きなリュックの中には、わたしが口にしても大丈夫な食べ物や水が仕舞われているんだ。そう思うと申し訳なくなった。


「あの……」


「……なに?」


 あれから、あまり話していないから少し切り出しにくいが、思い切って言葉にしてみる。


「わ、わたしも、もう少し荷物持つよ!!」


 驚いた顔でまじまじと見返されて少し怯みながらも、さっき考えていたことを素直に話した。


「いや、いいよ。鬼は人間より力、強いし、これはオレの仕事だから。でも、ありがと」


 そう言うと、春太が少し笑った。


「笑った!!!」


「は?」


 ああ、戻っちゃった。


「春太、もっと笑った方がいいよ。

かわいーもん」


 春太はギョッとして、「かわいくねーし!」とくるりと向きを変えて、早足で歩き出してしまう。その耳が赤いのを、わたしは見逃さなかった。


 

 笑って話していられたのもそれまで。お昼を済ませた後くらいから、急に傾斜がキツくなる。岩がゴロゴロして道も悪くなり、わたしはぜーぜー言いながら、慣れた様子で登っていく春太に悪態をついた。


「もー、早いよ春太!ちょっと休憩しよー」


「さっき休んだばっか……」


呆れて振り返った春太の顔が鋭くなる。

あたりを見渡し、わたしの方に駆けてくると、そのままわたしの頭を抱えてジャンプした。


「わっ!なに!?」


 2人重なったまま地面に倒れたその直後、今までわたしが立っていたところに岩壁が崩れ落ちた。春太が助けてくれなかったら、わたしは今頃あの下敷きになっていただろう。ゾッとして血の気が引き、心臓がバクバクと鳴った。


「けが、ないか?」


頭を起こした春太と目が合う。


わ、近いな!!息、かかってる。

今度は違う意味でドキドキしてくる。


「だ、大丈夫。助けてくれて、ありがとう……」


 まだ周りを警戒するように起き上がった春太の手の甲には、痛そうな傷があった。それは、倒れた時わたしの頭の下にあった方の手だった。


「春太!ごめん。わたしを庇ってケガ……。すぐ手当てしなきゃ」


「いーよこれくらい。舐めときゃ治る」


「ダメだよ、ちゃんとしなきゃ!それに春太も昨日してくれたでしょ?次はわたしの番だよ」


 ため息をつきながらも春太が振り返る。


「もう少し行ったら開けたとこにでる。ここは危ないからそこに着いてからだ」


「わかった」


 わたしたちはふたたびゆっくりと歩き出した。怖い思いをしたのに、今はもうちっとも不安じゃなかった。きっとそれは春太が一緒だからだ。そう思うと、なぜかすごく嬉しかった。

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