どこに向かっているのかも分からないまま走って走って、ようやく男の子が立ち止まる。

 そこは木々に囲まれた、小さな家の前だった。


「あ、あなた、わたしを食べる気……?」


震える手を必死に押さえ、声を絞り出す。


「は?んな訳ねーだろ。オレは人なんて食わねぇ。でもお前このままじゃ、あと3日で死ぬぞ」


「な、何言ってんの!?

てか、ここはいったいどこ!?

あの鬼は……っ」


「大声出すな!うるせーな。ここは三途の川。で、あの鬼は地獄への案内人。あいつに捕まったら最後、あの世行きだ」


「さ、三途の川……。わたし、死んじゃったの!?」


 詰め寄ると、男の子は大袈裟にため息をついた。


「だから言ってんだろ?このままじゃあと3日で死ぬって。お前はまだギリギリ生きてる」


「ギリギリって……。じゃ、なんでわたしはここに来ちゃったの?」


男の子が、わたしを真っ直ぐに見つめた。その目はきれいな金色で、人間ではないのだと改めて思い知る。


「お前、死にたいって強く思っただろ。その強い思いがお前をここへ運んだ」


そう、だった……夜のブランコの上で、わたしは確かにそう思った。


「死ぬ覚悟もないクセに」


バカにされカッとなる。


「っ、あんたになにが分かんのよ!!」


「死にたいなら、さっきの場所まで送ってくけど」


 感情のない冷ややかな瞳に射抜かれて、二の句が継げなくなる。

 なにも言わなくなった私から目を逸らし、男の子は家の中に入って行ってしまう。


「あ、待ってよ!!」


 男の子を追って家の中に入ると、そこには丸いテーブルと小さなキッチン、端に畳まれた一組の布団と小さな箪笥が置かれていた。


「ここで、家族と住んでるの?」


「家族はみんな死んだ」


「え……?」


「流行り病だ。オレだけが何故か生き残った」


「ごめ、なさい……」


「別に。あと、その顔やめろ。同情なんていらねー」


「あ……」


なにを言っていいか分からなくて、わたしは黙り込む。


「用意ができたら行くぞ」


「え?」


「オレの仕事はお前みたいに迷い込んできたやつを、出口まで案内することだ」


 男の子は立ちつくすわたしをよそに、リュックに荷物をテキパキと詰め込みはじめた。

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