②
どこに向かっているのかも分からないまま走って走って、ようやく男の子が立ち止まる。
そこは木々に囲まれた、小さな家の前だった。
「あ、あなた、わたしを食べる気……?」
震える手を必死に押さえ、声を絞り出す。
「は?んな訳ねーだろ。オレは人なんて食わねぇ。でもお前このままじゃ、あと3日で死ぬぞ」
「な、何言ってんの!?
てか、ここはいったいどこ!?
あの鬼は……っ」
「大声出すな!うるせーな。ここは三途の川。で、あの鬼は地獄への案内人。あいつに捕まったら最後、あの世行きだ」
「さ、三途の川……。わたし、死んじゃったの!?」
詰め寄ると、男の子は大袈裟にため息をついた。
「だから言ってんだろ?このままじゃあと3日で死ぬって。お前はまだギリギリ生きてる」
「ギリギリって……。じゃ、なんでわたしはここに来ちゃったの?」
男の子が、わたしを真っ直ぐに見つめた。その目はきれいな金色で、人間ではないのだと改めて思い知る。
「お前、死にたいって強く思っただろ。その強い思いがお前をここへ運んだ」
そう、だった……夜のブランコの上で、わたしは確かにそう思った。
「死ぬ覚悟もないクセに」
バカにされカッとなる。
「っ、あんたになにが分かんのよ!!」
「死にたいなら、さっきの場所まで送ってくけど」
感情のない冷ややかな瞳に射抜かれて、二の句が継げなくなる。
なにも言わなくなった私から目を逸らし、男の子は家の中に入って行ってしまう。
「あ、待ってよ!!」
男の子を追って家の中に入ると、そこには丸いテーブルと小さなキッチン、端に畳まれた一組の布団と小さな箪笥が置かれていた。
「ここで、家族と住んでるの?」
「家族はみんな死んだ」
「え……?」
「流行り病だ。オレだけが何故か生き残った」
「ごめ、なさい……」
「別に。あと、その顔やめろ。同情なんていらねー」
「あ……」
なにを言っていいか分からなくて、わたしは黙り込む。
「用意ができたら行くぞ」
「え?」
「オレの仕事はお前みたいに迷い込んできたやつを、出口まで案内することだ」
男の子は立ちつくすわたしをよそに、リュックに荷物をテキパキと詰め込みはじめた。
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