三途の川辺で恋をした

あおい

 ここは……?


 身を捩るとじゃり、と体の下にある石が鳴った。口の中に入っている砂をぺっと吐いてゆっくりと起き上がる。

 サラサラと水の流れる微かな音が聞こえ、まだボーッとする頭であたりを見回した。

 目の前には見たこともない大きな川。白いもやがかかっているせいか、いくら目を凝らしても対岸は見えなかった。


わたしはさっきまで公園にいたはず。

これは、夢……?


 辺りを確認するために立ち上がろうとすると、左足が痛んだ。見ると、膝小僧に小さな擦り傷が出来ていた。

痛いってことは、夢じゃない!?

 不安で居ても立っても居られず、わたしは駆け出していた。


「だ、誰かいませんか?」


 恐る恐る声を出してみるが、返事はない。そこで違和感に気づく。


ここ、静かすぎる……


 動物の鳴き声や動く音だけでなく、風の音すら聞こえない。聞こえるのは、ただ川の水が流れる音だけ。

 わたしはさっきよりも早いスピードで駆け出した。

 どれだけ走っただろうか。息が切れて胸が痛くなった頃、白いもやの奥に人や船の形がぼんやりと見えた。

 息が切れて声が出ないので、わたしは仕方なく疲れた足でそちらに向かった。そして、声を出さなかったことを心底良かったと思った。

 近づくにつれて、景色が鮮明になる。人影だと思っていた人の頭には、木の枝のような角が2本生えていたのだ。もやのせいで顔の造作までは分からないが、それはまさしく昔話でよく目にする鬼そのものだった。

 よーく目を凝らすと、角が生えていない人たちもいて、その人たちが、小さな木の船に乗せられていた。

 ヒュ、と喉がなってうまく息ができないまま立ちすくむ。


「走れ!」


 そのとき耳元で声がして、腕をグッと引っ張られた。


「あ……、え!?」


 わたしは訳も分からぬままに、腕を引かれ走り出した。腕を引いているのは、わたしより少し背が低い男の子。頭には、さっきの鬼よりはかなり小さいが、角があった。


「や!離して!!」


 わたしは恐怖で掴まれた手を振り上げるが、さらに強い力で握られ、振り払うことはできなかった。


「死にたくなきゃ、来い」


 男の子は前を向いたまま静かな声でそれだけ言うと、また駆け出した。

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