どこかの青春2

 彼氏の△△は、夏休みの宿題をサボって漫画に浸っていた。


 「△△、一緒に宿題しようよ」


 「……」


 彼は四角テーブルの私から見て左側にいる。


 「ねぇ、漫画なんていつでも読めるでしょう?宿題さっさと終わらせようよ」


 「……やだ」


 だるそうに返事をする。

 こんな感じ。夏休みはもう7月を終わろうとしている。残り1ヶ月。まだ1ヶ月と思うかもしれないが、人によっては後1ヶ月しかないというだろう。私は後者だ。


 一枚漫画ページをめくる△△。私も、一ページノートをめくって続きを書く。

 

 「……よし」


 やっと彼が漫画をやめた。全部読み終わったらしい。やった!一緒に宿題ができる!


 「あ!じゃあ宿題やろ!」


 「うん。これ読み終わったらやる」


 続編の漫画を手に取る彼。まだやる気が出ないようだ。


 「もう…なんでー…」


 彼の服の裾を引っ張っては、彼の読書の邪魔をしてやった。


 「続きが気になるから…」


 なんといい加減な!私は諦めない!手を止めなかった。彼の読書の邪魔を!


 「早めに宿題やったら漫画読み放題じゃん!」


 「いや、こっちの方が俺にとって大事な宿題」


 「何言ってんの」


 「本当にこれ読んだらやる…」


 そう言って、私の方にニコニコしながら言った。

 私は、ぷくーっと頬を膨らました。


 「そんな事言う人はこうです!」


 彼の後ろに抱きついた。この猛暑の中、クーラーなしで、扇風機だけ浴びてては苦しいだろう。後ろにべったりくっついてやった!


 「ちょっ!暑い!暑いから離れろ。扇風機が当たらないだろ」


 そう!扇風機が後ろにあるのだ。そこを盾のようにして風圧が当たらないようにしたのだ。はっはっは!これで漫画に集中できまい!


 「わかったら宿題しよ!」


  暴れるのをやめた彼は、ガクッと力を抜いた。

 私は観念したと察して離れた。


 「………」


 「………」


 耳をつんざくような蝉の鳴き声が響き渡る。


 「……やろ?宿題」


 「………」


 しばらくして、彼はビシッと姿勢を正した。そして、何事もなかったように漫画の続きを読む。


 「ちょっと、今の何?」


 「うん、体力を回復させてた。あー涼しい…」


 そういいながらその場に上半身を倒して漫画を読む彼。


 「ねぇ!宿題。なんで一緒にやってくれないの?」


 「暑いから集中できない…」


 「漫画は集中してるじゃん!」


 「これは別腹」


 別腹って…腹関係ないし。


 「じゃあ、アイス食べよ!」


 「おぉ、いいね」


 「そしたら宿題してくれる?」


 「……」


 また漫画に集中し始めた。宿題がよっぽど嫌らしい。


 「ちょっと!アイス食べたら涼しくなるでしょ?」


 「うん。だからアイスは食べたいね」


 「宿題…」


 「それは別腹」


 「………」


 このままでは、ずっと相手してくれない。

 もうどうすればいいかわからなくなった。


 「…ねぇ。そういえばアイスってあるの?」


 「分からん…」


 「△△の家でしょ?あるか知らないの?」


 「うん。知らん…」


 「じゃあ気分転換がてら、アイス買いに行く?」


 「それ…あり!」


 元気が出た彼は漫画をお腹に置いて、サムズアップしてきた。


 「じゃあそのあとちゃんと宿…」


 「やっぱ大丈夫」


 すぐ漫画に切り替えやがった。早すぎでしょ!


 「……もう……バカ」


 「ハイハイ。もうすぐで終わるからねぇ」


私は、机に倒れ込むように上半身を倒す。


 「まぁぶっちゃけさ、1ヶ月もあったら宿題なんて楽勝でしょ」


 私は、今△△と一緒にしたいの。確かにその通りだけど、今この時間一緒にしたいから誘ってるの!なんでそれがわからないのさ。この鈍感彼氏め!


 「ハイハイわかりましたよー。じゃあ私一人でやりますぅー。あーあ、宿題さっさと終わらせたら楽なのに、そしたらいつでも遊び放題なのになぁ。例えば…」


 彼は漫画をずっと読んで、私の話を聞き流してるみたいだ。聞いてくれてるか分からないけど、とにかく言ってみよう!


 「デートとか」


 ビクッ!

 

 彼が一瞬反応したような気がした。漫画のページをめくる最中に手が止まった。

 もしかしたらいけるんじゃないか?これ!

 よし、作戦開始である!


 「そうだなぁ。二人で広い浜辺に行ったり、泳いだりして。あっ、テーマパークとかもありだなぁ。ウォータースライダーとか超楽しそう!」


チラッ…


 彼の様子を伺う。

 また漫画の手が止まった!もうこっちの話に夢中みたいだ。

 

「後映画!この前××の映画観たいなぁって言ってたよねぇ。私もアレ気になってたんだけどなぁ」


 チラッ…


 一瞬、漫画を降ろそうとする動作が見えた。効いてる効いてる!このまま畳み掛けるぞ!


 「後アウトレット。夏休みはイベントがあったりするから面白そうだし」


 段々と漫画を降ろしてきている。


 「あっ!8月といえばお祭りだよね!二人で地元の夏祭り!いやー!行きたいなぁ。二人でいろんな屋台で遊んで、花火見て。思い出とか作れたらなぁ」


 チラッ……


 彼がゆっくりと起き上がってきた。

 そして漫画を床に置いて、自分の宿題と交換する。


 「しゃあねぇなぁ……」


 私はニコニコが止まらない。作戦大成功である!


 「やる気でた?」


 「……おう」


 「じゃあ宿題する?」


 「……うん」


 「えらいえらーい!」


 彼の頭を撫でてあげた。そのあと無事彼氏と宿題をやったのだった。



 


 

 

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