第7話 『人数分のチケット』
翌日の土曜日。アキトとハクアは午前八時少し前に待ち合わせ場所である駅に到着した。
彩と透はすでに到着していて、駅前のロータリーに並んで立っていた。
「早いね、二人とも」
「彩が早く行こう早く行こうってせがんでな」
「透だって早く起きすぎて暇だからさっさと行こうって言ってたじゃない」
「そうか? まあ、それよりもだ」
透は彩の両肩をつかみ、アキトの前に立たせる。
「どうだアキト。我が自慢の妹の私服姿は」
「どれどれ」
「ちょっと、やめてよ透。アキもそんな見ないで」
「うん、うん。似合ってるよ。白いシャツに明るい水色のキャミソールがいい具合に夏らしい雰囲気と清潔さを表現している。ショートパンツとスニーカーも彩の活発な印象としっかり調和しているし、全体的に中性的なイメージを表現しつつも女の子らしさがそこはかとなく主張されていて、見れば見るほどに可愛らしさが」
「もういいって!」
彩は顔を真っ赤にして叫び、透を振り払って駅の改札へ走った。
「あー……、もしかして、全然的外れなこと言っちゃったかな」
「いやいや。あの反応はど真ん中のど直球だな」
「そういう透は、いつも通りだね」
「これが一番楽な格好なんだよ。ところでアキト」
透はハクアのほうに目を向ける。
「ハクアのあの格好はなんなんだ。俺達と一緒だと、違和感がはんぱねえぞ」
ハクアが身に着けているのは、パンツスタイルのリクルートスーツだった。
いよいよ夏本番というこの時期に、このような服装で外に出る人間は珍しいだろう。
「仕方ないよ。本人があれじゃないとダメだって言うんだから」
ハクアは外出するとき、必ずこの服装を選ぶ。
もちろん、彼女の首筋と両手の甲にはコードが淡く発光していた。
仕方ねえな、とぼやきつつ、透はハクアに近づく。
「久しぶりだな、ハクア。今日はよろしくな」
「ええ。よろしくね、透君」
ごく普通にあいさつを交わしたあと、彼らも駅の改札へ向かう。
ハクアが自動改札を通ろうとした時、警報音が鳴った。
すぐに駅員が現れ、このアンドロイドの所有者は誰なのかをたずねた。
「何かおかしなことでもありましたか?」
アキトが言うと、駅員は丁寧に説明した。
「アンドロイドは荷物扱いになりますので、運賃の安い荷物用の切符でご利用いただけます」
「知っています。でも、ハクアは乗客ですから」
「なるほど。そうでしたか。失礼いたしました。それではこのままお通りください」
一礼して去っていく駅員を見ながら、アキトは言う。
「親切な駅員さんだね」
ええ、とハクアはうなずいた。
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