第12話 『かわらない日々』

 帰宅したアキトは昨日と同じようにハクアを目覚めさせ、夕食をつくり、風呂に入った。

 ハクアと一緒に夕食の席につき、一日のことを話しながら食事をとった。

 帰り道で、彩に好きだと言われたことも話した。


「彩も変わってるよね。たまにこういうことするから」


「あら。キトも人のこと言えないと思うけど」


「そうかな。僕はいたって普通の平凡な人間だと思うけど」


 ハクアは楽しそうに笑い、アキトは首を傾げた。

 食事がすむと、アキトはいつものようにハクアにひざ枕をねだった。

 ハクアはソファに座って、ぽんぽんとひざをたたく。

 アキトは彼女の隣に座り、寝転んで頭をひざに乗せた。


「ねえ、キト。あなたは彩ちゃんのこと、好き?」


「うん」


「じゃあ、透君のことは?」


「透も好きだよ」


「それじゃあ、部長さんは?」


「同じく。もちろん、ハクアのことも」


「ありがとう。ところで、今言った好きっていう言葉は、全部同じ意味なのかしら」


「同じだよ。ちがいなんて何もないよ」


「じゃあ、好きと、愛してるは、どうちがうと思う?」


「うーん……。よくわからないな。でも、同じ意味だと思うよ」


「ならどうして『好き』という言葉は使っても『愛してる』という言葉は使わないの?」


 アキトはその問いかけの答えを探した。

 しかし、まったくわからなかった。

 しばらくの沈黙のあと、ハクアは言った。


「好きと愛してるは、同じ意味だとは限らないの。言葉の形が違えば、その意味も、そこに込められる思いもちがってくる。それに、好きという言葉の意味はたくさんあるわ。だからその言葉を向ける相手によって、好きという言葉の意味もちがってくるの」


 その言葉を、受け取る相手にとっても。

 ハクアはそう続けるべきかどうか迷ったが、今はその時ではないと判断し、口を閉じた。


「そういうものなのかな」


「そういうものよ。キトだってこれまでに、誰かから『愛してる』って言われたことはあるでしょう。その時のことを思い出してみて」


 アキトは少し考える。


「愛してる、なんて、一度も言われたことないよ。言ったこともないし。まあでも……」


 アキトは目を閉じ、ハクアのひざの上で頭を少し傾ける。


「どうでもいいことだけどね。そんなことは」



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