第4話 『にたものどうし』
透が言った通り、彩は校門前のバス停にいた。
今まで陸上部の練習に励んでいたためか、彼女にしては珍しく表情に疲れが感じられた。
「だいぶ疲れてるみたいだね。だいじょうぶ?」
アキトが声をかけると、彩は「大丈夫」と答えた。
「今日はほとんど一日中外にいたから、少し疲れてるだけ。プールで軽く泳いだらさっぱりすると思う」
ほのかに幼さが残る彼女の顔に、小さな笑みが浮かぶ。
「アキこそ、いいの? 透の補習につきあって」
「最近透の顔を見てなかったからね。そうそう、部長が言ってたよ。二年になってから彩が部活に来てくれなくなってさびしいって」
「私もできれば行きたいけど、もうすぐ夏の大会があるから。それに、透が行くのいやがるし。今度部長さんに謝っとく。明日、陸上部の練習が終わったら顔を出すね」
「急がなくてもいいと思うよ。気が向いたらって言ってたから」
「あいかわらずいい人だね」
「へんなところはあるけどね。さっきも僕がプールに行くって言ったら、自分の水着を貸そうとしたんだよ。さすがにちょっと驚いたな」
「アキのことが好きだからだよ」
「僕も部長のことは好きだよ。なんだかんだで面倒見はいいし。そういうところは透と似てるよね。まあ、あの二人は会うたびにケンカしてるけど」
似ているからだよ、と彩は言う。
もっとも、アキトが言う「似ている」と彼女が言う「似ている」が指しているものは、ちがうものなのだが。
「もしくは、部長さんに嫉妬してるのかもね」
「それってどういう――」
アキトがそう言った時、バスがやって来た。
彩はバスへ向かって歩き出し、アキトも続く。二人は一番後ろの席に並んで座った。
バスが動き出した時、彩は言った。
「ところでアキ。今日の球技大会のことだけど」
「……あ」
「あ、じゃないよ。透と一緒だったんだから、あのバカをちゃんと黙らせて。むちゃくちゃはずかしかったんだからね」
「ごめんごめん。透が楽しそうにしてたもんだから、止めるに止められなくて。そうだ。その時に透から人権の作文が受賞したって聞いたよ。よかったね。おめでとう」
「あんまりおめでたいことじゃないよ。よくわかんないけど、今度の人権講演会で朗読することになっちゃったし。それに私は、あの作文に書いたことが、いいことだって思わないし」
「どんなこと書いたの?」
「人間とアンドロイドの関係性について」
「いいテーマだと思うけど」
「私は、作文の結論にこう書いたの。人間とアンドロイドの間には、人間と人間の間に生まれるような絆は生まれないし、生まれるべきじゃないって。それは結局ただのつくりもので、本物の絆にはなれないって」
彩は窓の外へ顔を向け、そのまま黙り込んでしまった。
しばらくの沈黙の後、アキトは彩の地雷を踏んでしまったことに気づいた。
彼女のアンドロイド嫌いは、小学生の頃からずっと変わってないのだ。
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