来栖凛華の回想


「時は、わたしが中学三年生の頃。今から約二年前かな。とても暑い夜の日のこと。その時、わたしは暑すぎて目を覚ましたんだ。これでも結構寝つきが良い方だったし、深夜に起きることもなかったから、珍しいなぁなんて思ってたんだよ」

「たぶん、寝る前に兄さんと一緒に怖いドラマを見ちゃって、それが原因だったと思う。そういう日ってなんか不気味じゃない? 人間は怖いものを見たとか、聞いたあとにすぐそういう体験をしがちだと思うんだよ。まっ、あくまでわたしの持論だけど」

「で、目が覚めたわたしはほんの少しだけ、何か食べたいなって思ったの。滅多に夜食なんてしない方なんだけどね。怖い時だけ、夜中のトイレは行きづらいもんでしょ。それと同じでちょっと尻込しりごみしたの」

「二階の部屋から、踊り場まで行って音を立てないように見張っていたわけ。そこからならちょうど居間の部屋が見えるからね。さすがにこんな夜中にキッチンに誰かがいるとは思えないし、不法侵入で狙うならまずは、金品だからありえないよねって考えてたの——」

 間を空けて言う。

「それがね、いたのよ。キッチンに背の高い誰かが小声で歌を歌ってたのよ」

「なんで皆驚かないのよ。肝が小さいのはわたしだけなの? まあ、いいけどさ」

「それで、歌の内容を聞いてみたの。内容はこういう感じだったわ」

「いちまぁ〜い、にぃまぁ〜い、さんまぁ〜い……」

「昔、こういう怪談があった気がするけど、それとは違って、周囲からは甘い香りがした。いい匂いすぎて、思わず近づきたくなっちゃったんだけど、これはやばいかもって思ったから二階に戻って引きこもったわ」

「さて、問題です。その時の誰かと、誰かがしていたことはなんでしょうか? そして、その理由とは? さあ、これを答えられたら、ジュース一本おごってあげる」

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