第3話 突然嫌な愛の告白を 後編


 ミリエラ団長率いる聖騎士団に入団したのはおよそ一年前。


 聖騎士になるために、俺は夜が明けるまで懸命に勉強をし、血反吐を吐きながら体術を習った。


 世間は『お前なんかが聖騎士になれるもんか』と嘲笑い、それでも諦めずに頑張って、頑張って……聖騎士になったんだ。


 初めて訪れた聖騎士団執務室を思い出す。


そこで〝聖騎士として上司の意見は絶対〟という誓約書にハンコを押した時に──いつか聖騎士の団長になってみせると、胸に誓ったんだ。


 弱い俺だって、いつか強くなると信じて。


 聖騎士団として経験を積めば、いずれ俺の能力が開花することもあるだろうし、聖女様から新たな加護を授かり実力も身につけていけば一人前の聖騎士になれると。


 聖騎士とは神聖術や魔法、聖剣技に長けた並の騎士よりも遥かに強く、時には勇者様に選ばれてパーティーを組む場合だってある。


 しかし俺は……並の騎士レベル。

 魔物を何体も倒すことで能力値は向上し、各々の独自の技であったり魔法であったりが目覚めるのが基本である中で、聖騎士になると大聖女様から特別な能力を授かることができるのだが──


 俺が大聖女様から授かった能力はハズレもハズレ、大ハズレだ。


【聖なる〇〇〇】これが俺の持つ嫌味なスキルだ。


 普通は聖騎士になると『聖剣技』やら『神聖術』など神の加護バッチリの有能な能力を何かしら大聖女様から授かれるハズなのに。


 なんなのこれ、意味不明。たしか大聖女様から能力を授けられた時、『あの……ちょっと恥ずかしいからネーミングは伏せ字にしときます……』とか言われたけど、わからなかったら使いようないじゃない。


 大聖女様、イジメですよ。おかげで今俺はクビにされそうなんですが。


 さらに俺の攻撃力の貧弱さ。数値で表すならば、攻撃力がたった20.5という新米聖騎士レベル。


 っていうか、なんですか? 攻撃力に小数点あるなんておかしくないですか? ちくしょう……! 本来なら聖騎士入団後、今ごろ俺はスーパーエリートになっているハズだと思っていたのに。


 これだと上級モンスターを倒そうにも時間がかかってしまう。おかげで毎回瀕死になる俺はミリエラや他の聖騎士たちいつも助けてもらっていた。アクティブタイムバトルではいかに早く攻撃するかが重要なのにもかかわらず、足を引っ張っていたのは否めない。


 でも。


 それでも気持ちだけは負けまいと、誇り高き聖騎士として走り続けてきたつもりだったのに……!


「なんで今さら辞めてだなんて……。ひどい! 俺頑張ってきたじゃないですか! この命を燃やし、全力でみんなに喰らい付きながら身を粉にして全てを捧げてきたじゃあないですかあああ!!!!」


 そう、俺を解雇する場面は今までいくらでもあったはず。なんだかんだこの聖騎士団で俺はドチャクソ頑張ってきたんだ。


 しかし、大声で咽び泣く俺にミリエラの嫌味な愛の告白的罵倒は続いてしまう。


「だからさぁ、それは君がぜんぜん使い物にならないからじゃないか。だいたいからして、キミの能力〝聖なる〇〇〇〟ってなんなのよ?! 最初は何か凄い能力なのかとも考えたけど、使い方も内容もよくわからない、そもそも自負自身が使いこなせない能力なんてゴミじゃないか!!」


 ですね、ごもっともです。


 ですが、その言葉はどうか大聖女メルフィラ様に言って欲しいのですががが!

 さらにミリエラは俺を右手で指差し、こう付け足した。


「それにさぁ、キミのその攻撃力じゃ、まともに戦うこともできないよね?? まったく、攻撃力に小数点って頭おかしいんじゃない?!」


 頭おかしいのは俺じゃなくて、こんな数値を与えた神に言って欲しいんですが……と、その言葉を俺はすんでのところで飲み込んだ。たしかにさっきの戦闘で俺は魔獣に襲われたところを皆に助けられた。


 俺が討伐対象に決定的な致命傷を与えられず、血塗れの瀕死状態でハイポーションをいくつも投与されたのは事実だ。


 ミリエラ団長は冷たくあしらい続け、ううぅ……と俺は嗚咽が漏れる。


「てことで、キミはクビだ。ここでさようならだ。どこかの辺境の村で『ここはどこそこの村です』とガイドの仕事でもしたら??」


 ミリエラは俺からくるりと背を向けて歩き出し、他の聖騎士たちも追従し俺に目もくれることはなく。

 スタスタと去っていく彼らに俺は最後の望みを賭けて走り寄る。


「ま、待ってくださぁい! もう一度チャンスをくださぁい!! お願いします、俺絶対に役に立ちますからあ!!」


 無職になったら結婚できないし、生活がヤバい!!

 っていうか、俺は厳しい親御さんのいる彼女と結婚する為に、金と名誉を稼がなくてはいけないんだ! 聖騎士としての誇り、じゃなくて高収入なこの職業を手放すわけにはいかないんだッ!


 俺はそれはもう必死に追いかけた。あと少しでミリエラの肩に手が届きそうになったその時──


「ったく、しつこいなキミはッッ!!!! うっとうしいんだよこのスットコドッコイがぁあッッ!!!!」

「──ッッ?!」


 聖騎士団の団長とは思えない下品な言葉を吐きながら、振り向きざまに振り下ろされる剣。その一閃は凄まじい衝撃波を伴う。当然、ステータス貧弱な俺に回避などできるわけもなかった。


 勢いよく吹き飛ばされ、地面に全身を打ちつける。


 激痛が全身を駆け巡る中で……届かぬ手を伸ばし、立ち去る聖騎士たちの笑い声を耳にしながら、俺は意識が遠のいていくのを感じていた。



 ヨシュア・マーフリー19歳。


  本日より無職になります、もしもこのまま命があるのなら。

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