第2話 突然嫌な愛の告白を 前編
「キミはもう私の聖騎士団には必要ないわ。お願いだから辞めて。そして二度とあたしの前に現れないでこのボンクラ」
「……は!? だ、団長。み、ミリエラ団長いいいい、今なんと言ったんですかッッ?!」
王様から直々に承った魔獣討伐を終え、さあて帰ろうと思った矢先のことだった。
唐突に聖騎士団のリーダーを務めるミリエラから冷たい声をかけられる。
その内容は猛烈に嫌な愛の宣告……じゃなくて死の解雇宣告だった。
長い髪を片手でふわりと靡かせて、彼女は蔑むような目で俺を見あげ、指をさしながら罵詈雑言の限りを尽くしてくる。
身長が低くても態度はデカく、どこへ行っても高慢ちきな彼女は気に入らないことがあるとすぐ暴言を吐くし、職権濫用をしまくる冷血女聖騎士だ。
だからこそ俺はなるべく彼女の機嫌を損ねないように逆らわないようにしてきたつもりだったのに。
そりゃあ俺がもしもドMだったなら彼女からの叱咤はご褒美だ。
実のところ、命令に忠実なワンコ聖騎士。どんな時でも上司に対してイエスマン。
それはドMじゃないのって? んなバカな。きっと俺はベッドでサディスティックに攻め続けるはずさ。
童貞だけど。
そして俺はミリエラからの告白(死の)に、ちょっと待ったをかける。なぜなら聖騎士は給料がいいんだ。勇者様や王国お抱えの魔道士団の次に待遇が良い。
俺は彼女の言葉に、瞬く間に血の気が引いてわなわなと震え出してしまう。
だってそうだろ?
クビになったら明日からどーすりゃいい?
俺には結婚したい彼女もいる。
生活だってある。
再就職には時間もかかるし、昨今は不景気で上手くいく自信がない。
というか、ようやく付き合えた彼女はエンゲル系数が高い公爵令嬢だ。
もしも俺が無職にクラスチェンジしたなら間違いなくフラれてしまうだろう。
それなのに……!
このツンロリおっぱいつるぺた貧乳女聖騎士は〝お願いだから……辞めて♡〟と俺に告げたのだ。
百歩譲って夜のベッドなら、たとえ俺にロリ属性がなくてもいい。なおかつ営み真っ最中に言われたなら、そりゃあ大歓迎だ。
つい、俺は『あん、ヨシュアん。おねがいぃん、やめてぇ……ん♡』と、ミリエラと抱き合う妄想を一瞬してしまう。悲しき童貞の性だ。
が、すぐさま我に返る。
この冷血女が、妄想の様に可愛いく目をウルウルさせるわけなんてない。絶対にないのだから。
だいたいからして、女上司に愛されちゃうだなんて都市伝説だろ? ったく、俺が最近読んだ恋愛小説、『職場で鬼ツン上司は、ベッドの上では激デレです!』じゃあるまいし。
とにかくミリエラ団長、俺のライフワークに関わることを言うのでしたら、せめて理由を聞かせてもらわないと納得なんてできない。
「な、なぜなんですか!」
俺は大きな声で言うと、ミリエラは鼻でクスリと笑い、小さな口を開き。
「だからクビだって言ったの。まさか自覚してないなんて言わないでね? キミが甲斐性なしの出来損ないで、経費ばかりかかるお荷物だってことを」
「そ、そんな! 一体俺の何が悪かったんですかッッ!」
「いちいち説明するのもめんどくさいけど。まぁいいわ。耳の穴かっぽじってよく聞きなさい、すべてよ全て。まるっとあんたの存在全てに決まってるじゃない、ほんと救いようのないバカね!」
冷ややかに述べた彼女の目はまるで、汚物でも見るようなものだった。
同僚である聖騎士達はミリエラの突き放してくる言葉にコクコクと頷き、かわいそうなモノを見るような眼で項垂れる俺を見ていた。
「仕方ないだろヨシュア。ミリエラ団長の言う通り……お前は無能な聖騎士だ。思い出せよ、さっき討伐した魔獣との戦いもそうだが、これまで傷つきまくるお前に回復薬をどれほど使用したことか……お前、弱いにも程があるぞ」
と、ため息混じりに横から口を出す同僚すらいる。
そりゃあ、俺はこの聖騎士団で一番弱い。
最弱なのは自負しているけど、傷ついた仲間に回復薬を使うのは当たり前じゃないか。それが仲間ってものじゃないのか! と言いながら、俺は同僚たちを順番に見やる。
するとだ。
「仲間だと? 笑わせるな! お前のために使う回復薬が今までウチの聖騎士団の活動資金をどれだけ蝕んでいたことか! てめーのせいで聖騎士団総務部から〝ちょっと経費使いすぎ〟と言われてるんだ。俺らの出世に響いてるんだよ、クソが!」
「その通りだ! おいヨシュア。何をどうしたらオレらと対等の〝仲間〟って言えるんだお前。てめーはウチの聖騎士団の荷物なんだよッ! それも生ゴミ、いや……生ゴミ以下の以下のなぁッッ」
下卑た言葉を浴びせられ、野次が飛び交う。
屈辱的な立ち位置に唇を噛み締めて耐えながら、俺は考えていた。
たしかにいつか解雇宣告を言われるかも……なんてのは心のどこかで感じてはいたんだ。
俺は役に立たない。
モンスターと戦っちゃあ、いつだってズタボロになるし、生死の境を彷徨うなんて幾度も味わったし。
攻撃力は低いし仲間をサポートする支援能力なんてのもまったくない。
それでも……それでもだ。
「ミリエラ団長! 俺はそれでもこの聖騎士団と国民……王国のために文字通り命をかけて懸命に頑張って来ました! 時には傷ついた俺に肩を貸してくれたりしたじゃないですかああ!!」
「アハハっ! そんなのネタに決まってるじゃない。傷ついた貴方に肩を貸すことで、より崇高で高貴、慈愛に満ちた仲間思いの聖騎士として民衆にアピールするためよ!」
ミリエラの顔が邪悪な笑いに満ち、突きつけられた言葉に俺はガクリと膝から崩れ落ちる。ミリエラの言葉一つ一つが俺の心を踏みにじり、刺し貫いていく。
「そ、そんな……! 俺が一生懸命がんばって来たのは一体……うぐ……っ」
反論してどうにか縋り付くつもりまんまんだったけど、俺は気がついたら泣いていた。涙がぼろぼろと滝のように溢れてくる。ミリエラ団長……あんたは残酷だ、あんまりだ。
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