大ピンチ! イミフ能力『聖なる◯◯◯』のせいで、大聖女様がストーカーになるわ、勇者様はBL化するわで俺の貞操はもうダメかもしれない

愛善楽笑

迷惑大聖女ストーキング編

第1話 イミフな愛の能力を


「……貴方の能力は聖なる○○○……です」


「すみません! 大聖女様、もう一度お願いします!!」


 晴れて聖騎士となり、大聖女様から神聖なる能力を授けられる今日この日。


 初めてお会いする大聖女メルフィラ様のあまりの美しさに心を奪われてしまった俺は、緊張のあまり大事なセリフを聴き逃してしまったようだ。


 そう、彼女はあまりに美しかった。


 鮮やかな銀髪の長髪で愛らしい目鼻立ち。華奢でありながら、お手ごろサイズのおっぱい……神々しいとはまさにこのこと。


 そんな彼女に俺は見惚れてしまったのだ。



 するとだ。



「あにょ、そにょ、……だから、◯◯◯ゴニョゴニョゴニョです」

「えっ? すみません、なんて仰ったのですか?!」


 やや舌ったらずで、やはり聞こえないし、それどころか大聖女様が顔を赤らめてモジモジしだした。


 ははぁ、さては大聖女様。


 もしやトイレを我慢されてるのでは?


 かわいそうに。多忙な毎日を送り、激務をこなしている彼女にはきっと、トイレにいく時間もままならないのだろう。


 トイレに行きたい、その言葉を大聖女様のお口から言わせるなんて紳士的ではない。


 空気を読んで、レディをスマートにエスコートするのは紳士として、聖騎士として必要なのだ。


「大聖女様、我慢はお身体に悪うございます。私もちょうどしたくなってきました……ともに行こうではありませんか」


「ちょっ! ちょちょうどどどしたたた、したく?! とっととっと、共にだなんて、そんなはしたにゃいことできまちぇん!! わわわ、わたしはそんニャ軽い女じゃありましぇんのよッ」


 ????


 大聖女様はあたふたと焦りだし、ぶんぶんと顔を振る。俺が思うに、トイレに行くのはぜんぜんはしたないことではない……が、大聖女様ともなると口に出すのも恥ずかしいのだろう。


 いや、もしかしたら死ぬほど具合が悪いのかもしれない。


 俺は首を傾げ、こう付け足した。


「大聖女様が軽いなどとは思っておりませんが、俺は貴女が心配なのです。お顔が真っ赤ですし、どこかお身体の具合が悪いのかと……」


「わわわ、わ、わたちのこちょは心配にも及びまちぇんでしゅわ!」


「さようでございますか。では俺の能力について今一度、その用途及び効果、そして能力名を……」


「ダ、ダメでちっ! しょ、しょんにゃ? そん……ちょんな、はしちゃにゃいことを乙女の口から言わちぇようとするのはおやめくだしゃいッ」


「それは失礼しました……て、はしたない?? は??」


 わけがわからない。頬に両の手の平を当てて恥じらう大聖女様に、なぜそんなことを仰るのかと問うと、俺の能力名は恥ずかしくて口に出せないんだとか。


 それに、大聖女様は慌てると舌ったらずになるのが良くわかった。


 大聖女様は落ち着きを取り戻すように深呼吸をしてから、再び言う。


「……貴方の能力は、わたしの口からとてもじゃないですけど申し上げることができないのです……ほんとに恥ずかしいんだもん……」


「え、ちょ、そんな。大聖女様!?」


「それと……あんまり恥ずかしいので、能力名は誰にもわからないように、伏せ字にさせていただきました……。だって聖騎士となった貴方にこんな破廉恥な……じゃなくて、強力な能力が知れ渡ってしまったら……あぁ、考えるだけでも恐ろしいわ」


 冷静さを取り戻した彼女は巻き舌ではなく、スラスラと言葉を並べだす。


 しかし大聖女様、俺自身もわからなければ恐ろしいも何も使いどころがないのですが。


 つーか破廉恥ってなんだよ、それだけははっきりと聞こえたんですけど。意味不明なんですが。


 そして、俺の脳内に一瞬の妄想が走る。


 壁ドン顎クイからの、『さあ……俺の能力をそのかわいい口で言ってごらん、ベイビー』と、大聖女様にせまる恋愛小説のワンシーン。


 しかし、俺は立場を思い出し、はっと我に返る。


 そう、俺はようやく聖騎士試験に合格した未来ある新米聖騎士。


 正義の騎士が大聖女様にセクハラまがいのことなどできやしない。


 もしそんなことをしたら聖騎士の資格の剥奪はおろか、王国からの追放だってありえることだ。


 以前として曖昧に濁すばかりでごまかし続ける大聖女様に、本当は無理矢理にでも問い詰めたい衝動を抑えて俺は、「え、ちょ。その……は、はぁ……」と、釈然としないまま頷くしかなかった。


 とはいえ……聖騎士になれば、神の意向を汲み取った大聖女様から聖なる加護や能力を与えられるはずなのに、まさか能力を教えてもらえないというのはさすがに予想していなかった。


 だいたい能力が使えないなら、俺が聖騎士として成り立つのは厳しいと思うんだけどな……。それに能力を口外するなと言うならそれに従うのに、俺自身すら能力の全容を知りえぬとか……まったく前代未聞だ。


 すると、未だに顔を火照らせている大聖女様は冷静さを取り戻すかのように咳払いを一つしたあと、「ヨシュアさん、それでは貴方は栄えある聖騎士として、明日からミリエラさんが率いる聖騎士団に所属してもらいます。いいですね?」と俺に指示してくる。


「しかし大聖女様、俺は自分の能力のことをなんと説明すれば?」

「え?! えっちょ……素直に聖なる◯◯◯とお答えください」

「いや、だから大聖女様良く聞こえないんですが……もし言いたくなければせめて、大聖女様からミリエラ団長にご説明をしていただくわけには……」


 大聖女様の顔を覗き込むように俺は言うと、やはりといった反応が返ってくる。


「は、はは恥ずかしいからイヤでちゅうぅっ! 言いたくないんでちゅっ! と、とにかく明日からよろしくお願いしますねッ! さ、もう次の方が待ってまちゅのでッッ!!」


「え? は、はぁ」


 羞恥心からか焦りを込め、舌ったらずなあしらいを受けた俺は、釈然としないまま大聖女様に深々とお辞儀をしてその場を後にするのだった。


 ──そして、のちにこの伏せられた上にイミフな能力のおかげで俺が失意のズンドコならぬどん底に落ち、屈辱を味わうのはそう遠くない未来だったのである。

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