第20話 賢い倒し方






「さて、手合わせしてもらおうかぁ!」


 ヴィランの凄まじい気迫を肌で感じながら、俺も盾を構える。

 しかし、敵の姿は俺には見えない。

 地震かと思うくらいの振動はする。

 地中からの攻撃が飛んでくると警戒を深めた。


 ──地上に引きずり出さないとだな。


 潜られたままではまともな戦いは出来ない。

 ヴィランなら、それでも構わないと言いそうだが、俺は視認できない敵とは戦いたくなかった。


「ヴィラン、俺はどうすればいい?」


「心配すんな! 今に巨大ミミズの首根っこ掴んで、地面から掘り出してやっからよ!」


「あ、ああ」


 ──あの、でかい個体をどうやって掘り出すんだ?


 ヴィランは剣を地面に突き刺し、そのまま瞳を閉じた。

 普通に考えれば、気でも狂ったのかと言いたくなる行為だが、ヴィランはギガントワームを誘っているのだ。

 剣から出されるヴィランの魔法によって、特殊な音が地中に響く。

 それは、モンスターにとって非常に不快な感覚を与えるものだ。


 ……それこそ、地中に潜っている潜伏者を表に出すには、ちょうどいいくらい。



 グオオォォォォンッ!



「ほらよ! でっけぇのが出てきやがった!」


 数秒待てば、ご覧の通り特大のギガントワームが地中から頭を出してきた。

 ──なんか、キモいな。

 目はなく、大きな口とぶよぶよとしたボディ。

 きっと縄張りに獲物が迷い込んだら、丸呑みにしているのだろう。

 色は黒く、白い斑点がところどころにある。

 見た目の不快感は想像以上である。


「レオ、やつの攻撃を受けろ!」


「……ん〜、分かった」


 本当は嫌であった。

 重い一撃を恐れてというより、盾に触れさせたくないという思いが強かった。

 だって、なんか表皮にネバネバした光沢が……。

 しかし、そんなわがままを言えるほど余裕があるわけではない。


 ヴィランが動きやすいように、俺は目の前のギガントワームをしっかり縛り付ける必要がある。


「よし、来いっ!」


 大声を出し、ギガントワームの注意を引く。

 単純なことだが、この手の目がないモンスターは音に敏感だ。

 案の定、ギガントワームは俺の方に顔を向けてくる。

 そして、


 ガラッゥッタァァッ!


 風圧を感じるくらいの雄叫びと共に、ギガントワームが大口を開けて迫る。


「……丸呑みされそう」


 そこからの判断は速かった。

 真正面からは受けられない。

 盾で止める以前に盾ごとギガントワームの口の中に収まりそうであったから。


 ──まずは、かわして!


 ギガントワームの突撃をひらりとかわす。

 様子見として、側面から一度殴ってみる。

 盾による打撃。

 しかし、ギガントワームの肌は弾力があり、弾き返されてしまった。


 グロォォギョァァォッ!


「これは、鈍器じゃダメージ通らないな」


 レオはすぐにヴィランの近くへと移動する。


「悪い、やつの攻撃を受けれなかった」


「いんや、賢明な判断だったぞ。今のは食われちまうのだったからな!」


 正面から縛り付けるのはリスクがでかい。

 側面を狙うか!

 俺は、ヴィランにあることを頼む。


「ヴィラン、あのギガントワームの横っ腹を捕らえたい! だから、ギガントワームの頭部がこちらに向かないように誘導してくれ」


 ヘイトを取るべきであるのは、俺だが、優位に戦闘をするにはこれしかない。

 危険な行為。

 それを承知の上で、俺はヴィランに頭を下げた。


「……んな、辛気臭い顔すんなって!」


 ヴィランは喜んで快諾してくれた。


「いいのか?」


「ああ、元々お前を付き合わせているのは俺だ。相応の危険を背負う義務くらいあるってもんさ!」


 そんなヴィランの背中は、とても頼もしく、格好の良いSランク冒険者そのものであった。

 ──これだから、敵わないんだよな。


「よし、レオ! お前はアイツの側面に回り込め! 作戦開始だ!」


 その言葉に黙って頷く。



 レオとヴィラン。

 2人はそれぞれの動きへと移った。


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