第19話 異眼の実力
ギガントワーム。
俺たちが次に討伐しなければならない巨大ミミズ型モンスター。
……最悪だ。
巨大な化け物みたいな蜂を苦労して倒したと思ったら、今度は、地中に潜む巨大なミミズと戦わなきゃならないなんて……。
こうなったのも、全てヴィランが悪い。
クイーン・ポイズンビーの討伐をそのまま冒険者ギルドに報告をしたヴィラン。
しかし、彼はそのまま次の依頼を受けてしまった。
『この依頼もクリアしてくれたら、秘蔵の酒をプレゼントする』
そんな甘い誘惑にヴィランは負けたのだ。
ギルド長の策士め。
ヴィランが酒にだらしないところへ付け込みやがった。
「……はぁ」
万全な準備期間も得られず、依頼をキャンセルすることも悔やまれたため、仕方なく俺たちは再び荒野に出向いていた。
加えて、今回の討伐は俺とヴィランの2人だけである。
『信じられないわ……この酒飲みリーダーは、誘惑に釣られて、こんな依頼受けるなんて』
怒りが込み上げているモナを必死に落ち着かせようとするアイリスの表情が今も瞳の奥に浮かんでくる。
結局、モナは自分勝手に依頼を引き受けたのを根に持ってしまい、アイリスを連れてパーティハウスから出て行ってしまった。
モナ大激怒の瞬間である。
お休みモードに移行していたのに、それを急に消し飛ばされ、仕事だなんて言われれば、そりゃそうなるなと感じる。
アレンは、
『悪いね。流石に2人を放っておくわけにはいかないからさ』
なんて格好つけたようなことを言い、モナとアイリスを追いかけてしまった。
──行きたくなかっただけだろ。
なんて、心の中で愚痴ったところでもう遅い。
結局、3人がギガントワーム討伐の日に戻ってくることはなく、俺とヴィランの2人で赴くこととなった。
ヴィランに同情はしない。
これは、彼の自業自得なのだから。
──ただ、俺には同情する。
「なんで、俺だけヴィランの酒のために働かにゃならねえんだよ!」
「悪かったって! ギガントワームを討伐できたあかつきには、お前にもギルド長から貰える酒、飲ませてやるからよ!」
「どうせヴィランが9割くらい飲むんだから、割りに合わない仕事だよ」
「こまけぇなぁ! ガハハッ!」
ちょっとは迷惑とか考えて申し訳なさそうな顔をしろよ……。
ヴィランは相変わらずの馬鹿笑いをする。
──まあ、今更……やっぱり帰るなんて、言わないけどな。
ギガントワームは、地中にいるため正確な所在は不明だ。
しかしながら、俺とヴィランはすでにやつの縄張りの中に足を踏み入れている。
引き返したところで、ギガントワームに襲われる危険がある。
なら、賢明な判断をすべきだ。
ヴィランと共にギガントワームを狩る。
たったこれだけである。
「ヴィラン、見えるか?」
「いんやぁ、特に異常はないんじゃぁねぇか?」
ヴィランは酒瓶片手にそう告げる。
相変わらずの酔っ払いぶりに本当に見えていないのか不安になってくる。
酔っ払って、視界ぼやけてんじゃないだろうな?
疑いの視線を向けるが、
「んな、緊張するなって、俺がいる限り、奇襲なんざ喰らわねぇよ」
ヴィランは、自信満々であった。
彼の瞳は、常人のものとは違う。
見えるべきではないものが視界に入ってくるそうだ。
見えざるものを見る能力。
【異眼の酒好きヴィラン】
全てのものごとを見通し、看破できないものはない。
そんなヴィランに付けられた二つ名は、なんとも彼らしいものである。
──酒好きの部分を呼称に入れられるくらい、いつでも、どこでも酒飲んでるからなぁ。
ヴィランの酒豪っぷりは誰もが知る情報である。
本人も特に気にしていないことから、その名で通っている。
「レオ」
ヴィランは俺の名を呼ぶ。
ヘラヘラした声ではない。
真剣そのものである。
「……来たか?」
「ああ、俺たちの方にどんどん近づいて来てやがる!」
ヴィランは剣を構える。
彼は剣術をほとんど人前では披露しない。
だから、彼の剣の腕がどれほどのものなのかを知る人は少ない。
──まあ、ヴィランの剣術は、普通に化け物レベルなんだけどな。
ヴィランが敗北する姿が浮かばない。
どんなに脳内で戦闘のシミュレーションをしたとしても、余裕そうな顔でヴィランが勝つ。
そう、だから気負うことなく挑もう!
迫り来る脅威に正面からぶつかる。
【エクスポーション】としての実力が試される戦いである。
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