二章〜初恋のスタンピード〜

第15話 クイーン・ポイズンビー討伐(前編)




 病み上がりなのに、酷使されるというのは、案外辛いものである。

 大盾を構えながら、迫り来るポイズンビーの大群に視線を向ける。


 ──なんか多くない⁉︎


 この数は、ちょっとやり過ぎなくらいだ。



「レオ、そいつ止めて!」


 モナの鬼気迫る声によって、俺は思いっきり盾の位置をずらす。


 戦闘真っ只中。

 今は、ヴィランの持ってきたクイーン・ポイズンビーの討伐をしにポイズンビーの巣がある場所へと来ていた。


「おっけ!」


 モナの声にしっかりと通る声で返す。


 ポイズンビーが盾に衝突してくる。

 それを俺は、しっかりといなす。


 通常のポイズンビーが無数に飛び交う場所にて、俺は存分にタンクとしての役割をこなしていた。

 四方八方から飛んでくるポイズンビーは、お尻にある毒針をこちらに刺してこようと突撃を繰り返すが、それを無効化。


 盾によって全部防いでいるわけではない。


 モナと背中合わせになりながら、俺が正面の攻勢が激しい方を足止めし、比較的数の少ない俺の死角をモナがカバーするという戦法。


 相棒役のアレンは、俺の近くにいない。


 少し離れた場所からの援護という形での参戦。

 渦みたいに集合しているポイズンビーの真ん中に位置取っている俺らほどではないが、アレンの方にもポイズンビーの猛攻が敢行されていた。



 ──まあ、ヘイト管理は、きっちりやってるから、大体のポイズンビーは俺に釘付けなんだけどな。

 

 巣を荒らす侵入者。

 そして、俺とモナは、その攻撃のまとになっている。


「元気なのが来るわよ!」


「ああ、了解!」


 飛んできたポイズンビーを器用に槍で捌きながら、モナは俺の肩をつつく。


「全体魔法は、もう打つ?」


「いや、まだ温存で頼むわ。まだ引きつけたい」


「そう、タイミングはレオに任せるわよ」


 モナの戦闘は槍で行うことがほとんどだ。

 しかし、彼女は元貴族という出生から、魔法に関しての心得もある。



 槍と魔法の二刀流。



 それ故に、今回のクイーン・ポイズンビー討伐において、俺と組むことになったのだ。


 空中戦を得意とするポイズンビー。

 受け型の俺はいいが、近接戦闘メインのアレンやヴィランだと相性が悪い。

 かと言って、魔法オンリーのアイリスでは、接近された際に不利となる。


 ──モナが器用だから、こういう時は、いつも助かるな。


「モナ、今だ!」


 号令によって、モナは素早く槍を地面に刺し、携帯用の小さな杖を構える。


「サンダーレイン!」


 雷の雨。


 言葉通り、無数の雷がポイズンビーの群集に降り注ぐ。

 飛行型モンスターへの有効打。

 魔法自体の威力が高く、広範囲に渡って、ポイズンビーに電撃を加えていく。


 雷が命中したポイズンビーは、ビクビク痙攣しながら、ドサドサと地面に落ちる。


 撃ち落とされたポイズンビーは、危険度が格段に下がる。つまり、誰でも簡単に駆除できるということだ。


「アレン、頼む!」


「待ちわびたよ!」


「後方から援護します!」


 機を見計らっていたアレンが地面に打ち付けられたポイズンビーの大群に向かって突っ込んでくる。

 空中での機動力さえ封じてしまえば、攻撃速度の速いアレンが猛威を振るえる。



 攻勢が逆転した瞬間である──。



 アイリスも安全圏から魔法で支援攻撃を行なっていた。


「いやぁ、若い奴らは元気でいいなぁ。お前らとパーティ組んでると楽できて嬉しいよ」


「いや、酒飲んでないで、おっさんも助けろよ!」


 呑気にあくびをしながら、ヴィランはアイリスの近くで突っ立っている。


 思わず、「助けろ」という至極真っ当なツッコミを入れてしまったが、ヴィランはアイリスへ向かってくるポイズンビーを切り落としている。何気にちゃんと役割をこなしているから、掘り下げて注意することができない。



 ──せめて、戦闘中くらいは、飲酒は控えろよ。


 ポイズンビーを大盾で強引に叩きながら、そんなことを思う。


 ──まあ、いいか。アイリスが怪我したらパーティの回復が出来なくなるし。酔っ払ったおっさんの攻撃がこっちに飛んできても困るしな。


「アレン、全部倒したか?」


「ああ、モナの魔法とレオが引きつけてくれていたおかげだな」


 空が見えなくなるくらいに大量にいたポイズンビーの群れは、ほぼいなくなっていた。

 しかしながら、これはあくまでついでに過ぎない。


 本命の襲来。


 一通りの戦闘を終えたアレンをこちらに呼ぶ。

 クイーン・ポイズンビーの討伐にアレンの参戦は欠かせない。


「モナ、行けるか?」


「はぁ、はぁ……ちょっと休めば、ね」


 モナはかなり大規模な魔法を撃ち込んだ影響により、息切れを起こしている。

 彼女が復帰するまで、アレンに攻撃役を一任することになりそうだ。


 ──耐久とミリ削りくらいなら、俺でもやれるな。


 クイーン・ポイズンビーの攻撃はかなり強力である。

 それこそ、まともに食らってしまえば、アレンもかなり消耗する。


 俺であれば、盾込みで十分耐え切ることができる。

 アレンをクイーン・ポイズンビーの脅威から守りながら、モナの復帰を待つ。


「アレン、頼むぞ」


「ああ、重撃の受けはレオ、任せた」


「ああ、それは任せろ」


 モナにアイリスが駆け寄る。


「モナちゃん!」


「ごめん、アイリス……」


 すかさず回復魔法をアイリスは使用する。

 モナの呼吸は整いつつある。

 モナの戦線復帰も早まりそうだ。


「……来るぞ」


 後方の状況を確認した後、俺はアレンの呟きによって前方に向き直る。


 巨大な影が迫る。


 ポイズンビーのボス。

 クイーン・ポイズンビーであった。

 先程までのポイズンビーとは、迫力が違う。

 全長が7メートル近くあり、討伐目的でなければ、絶対に敵対したくないような相手である。


 ──相変わらず、虫のくせによくこんな大きさに育つよな……。


「中々でけぇ個体じゃねぇか! 今まで見た中で、2番目くらいにでかいんじゃねぇか?」


 いつの間にか俺のすぐ後ろまで来ていたヴィランは感心したように語る。


「落とせるか……?」


 近付いてくるクイーン・ポイズンビーの迫力に思わず、そんな弱気なことを呟いてしまう。

 幾度となく、死線を潜り抜けてはきたが、やはり危険がこの身に忍び寄る感覚には慣れない。


「レオ、俺がやつのヘルスを削る。注意を引いてくれ」


「ああ……」


 俺は盾をクイーン・ポイズンビーに向かって構える。

 そして、手前にポイズンビーが襲ってきやすくなる香り玉を投げる。


 グギャァァァァァッ‼︎


 クイーン・ポイズンビーの威嚇。

 怒り狂ったかのように、俺の盾に一直線に飛び込んできた。

 ──やっぱ、怖すぎんだろ。


 攻撃を受け止める自信はあった。

 それでも、自分の数倍もある大きな虫が迷いなく飛び込んでくる様子は、普通に恐怖感を覚えるものだ。


 ガコンッという鈍い衝突音と重々しい圧力を踏ん張りながら耐える。

 足が地面に埋まりそうになるが、そんなことは気にしていられない。


「アレンッ……やれっ!」


「くたばれよ!」


 アレンの疾風の如き斬撃は、クイーン・ポイズンビーに無数の傷を刻む。

 暴れるクイーン・ポイズンビー。

 しかしながら、その動きによってアレンが剣を振るう手を止めることはなかった。


 ──大人しくしろ!


 俺のスキル【釘付け】の効果であった。

 対象を俺に夢中にさせ、その場から離れられなくするという壊れ性能のスキル。


 加えて、【腐食】という俺のもう一つのスキルによって、クイーン・ポイズンビーに微量ながらも継続的にダメージを蓄積させていく。


「いやぁ、流石は僕の相棒だよ」


「いいからっ、黙って……攻撃しろってぇ……」


 感心しているアレンを必死に睨みつける。

 こっちは、これでも必死に足止めしてんだよ。

 ぽけ〜っとされたら、大変な時間が長引くだろうが。


 激闘は続く。



 クイーン・ポイズンビーの無尽蔵にある体力を削り切るまで……。


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