第13話 朽ち果てた聖剣(ランド視点)




「ランド、私……【聖剣の集い】を抜けるわ」



 諦めたような瞳をしたラウラがうちのパーティから去っていった。


 理由を聞いたが、「一身上の都合」の一点張り。

 絶対にそんな理由ではないと一目見て理解した。

 しかし、詳しい話を聞くことは叶わなかった。

 それでもラウラが切なそうな、スッキリしたような面持ちであったのは、覚えている。


「俺が……間違っていたのか? いいや、そんなことはないはずだ」


 【聖剣の集い】は、もはやパーティとして機能しない。

 欠けた人員の補充もままならない。


 残された俺とカナは、必死に穴埋めをしようとパーティに募集をかけたが、悪評が広まった俺たちのところに来たがる者は誰もいなかったのだ。


 今やSランクの【エクスポーション】で活躍しているレオを「攻撃をしないから」「攻撃から身を守っているだけだから」という理由で追い出した。

 だが、それは正当な理由だった。

 貢献度で考えれば、レオは1番無能であった。



 ──だが、現状は失敗続き。



 ラウラの考えを読むことができなかった。

 だから、彼女が冒険者を辞めるのを引き止めることができなかった。


 レオと対峙し、圧倒的な実力差を知らしめられ、俺は自分の過去に行ったことが明らかなミスチョイスであったことを思い知らされた。

 もう、元には戻らない。

 壊れた関係は、修復不可能。



 終わりだ。



 俺も……【聖剣の集い】も……。


 人がいなくなり、衰退していく元Cランクパーティ。

 2段階も降格し、今ではほぼ底辺に位置するEランクとなってしまった。



 何もうまくいかない。

 誰も助けてくれない。

 苛立ちが募る中、パーティ内の関係性も悪化。

 ……カナとも、あまり会わなくなった。


「ごめん……今日は、ちょっと調子が悪くて」

「今日は……都合が、ね」

「また今度ならね」



 活動頻度は落ち、

 俺は、酒に溺れた。



 それでも、心は満たされない。

 生きていることがちっとも楽しく思えなかった。


 ……最近は、孤独を強く感じる。


「ランド、今日も頼むぜ!」

「ランド、前に出過ぎ……魔法が使いにくい」

「ランド! 今、回復魔法掛けてあげるから!」


 レオ、ラウラ、カナ……。



 もしもあの時、レオを無能扱いして追放しなければ……欠員を出さなければ……今でもお前たちと一緒に俺は冒険者をやれていたのか?


 疑問に答えてくれる者はいない。

 空虚な空気に消えて無くなる。

 静かな空間。

 明日への希望なんてものもない。


 ……俺のした判断は正しかったはずなのに。

 レオは役立たず、そう信じていたのに。

 そんな幻想を打ち壊すのが、【聖剣の集い】が陥っている現状。


「……ちくしょう!」


 誰1人いない俺だけの空間。

 

 酒瓶を壁に投げつけ、その割れる音が部屋にこだまする。

 無意味なことを。

 俺は何をやっているんだ……。



 ……レオのせいだ。

 こんなことになったのは、全部全部アイツの責任!

 許さない!

 俺はこんなの認めない!


【聖剣の集い】は本来Sランクパーティになるはずだったんだ。レオなんかのいる【エクスポーション】なんてふざけたパーティに負かされるようなちっぽけな存在じゃない!


「見てろよ……俺が絶対にお前に膝をつかせて、謝らせてやる……」

 

 憎しみが湧き出る。

 止まらない。

 止めなくていい。

 俺のこの感情は正しいのだから。

 俺の栄光への道はまだ断たれていない。


 ……足掻いてやる!


 こんな場所で廃れ続けるわけにはいなかない。

 俺は【聖剣の集い】のランドだぞ?

 苦難も苦労も跳ね除け、必ず成り上がってやる!



 

 ──こんなんで、終わったと思うなよレオ!



 

 元Cランクパーティ【聖剣の集い】は、この日から。



 ──冒険者ギルドに姿を現すことはなくなった。

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