第11話 俺は戻らない
「おらぁっ!」
ランドは自身の持つ大剣を軽々と振り回す。
攻撃速度は、若干遅いものの、一撃で相手をノックアウトさせるその威力には、恐ろしいくらいの破壊力があった。
──以前よりも、筋力が上がっているか。
燻っていただけではないのだなと、俺は感心する。
腐っても冒険者パーティのリーダー。
【聖剣の集い】を抜け、彼らの実力がどれくらいだったかも忘れてしまっていた。
けれども、実力は確かにある。
その名に相応しい強さがあるのだ。
……それと同時に、みきれるくらいの剣筋であるのもまた事実。
──けど、それだけだな。
アレンの足下にも及ばない。
「はぁ!」
振り下ろされる大剣を悠々と避け、小型ナイフを大剣にぶつけた。
日々、アレンの風のような動きに見慣れているからだからだろう。的確な一撃を入れるのは容易いことであった。
金属のぶつかり合う音。
瞬間、大剣の中心部分に大きなヒビが入る。
「んなっ……馬鹿なっ!」
「諦めろ。お前に俺は倒せない」
「んぐぁっ……」
的確な狙い。
威圧的な大剣をたったの一撃で破壊する。
そして、信じられないものを目にしたかのような顔のランドを回し蹴りで吹き飛ばす。
流れ作業となんら変わりない。
──なんで、こんなヤツについて行こうと思っていたんだろうな。
「呆れるよ。本当に……」
「だ、黙れ……レオのくせに、生意気に俺のことを見下ろすんじゃねぇぞ!」
威勢だけはいいランドを心底軽蔑した視線で見つめる。
「……もう諦めてくれ。俺はもう、お前たちと関わる気はない」
「勝手に逃げんじゃねぇよ! お前は役立たずらしく俺に従ってればいいんだよっ!」
「相変わらずの傲慢っぷりだな。お前と俺の関係はもう終わってるんだよ……」
「まだだ! 終わってねぇ……俺は、こんな低ランクで一生を終えるようなたまじゃねぇんだよ! お前を痛めつけて、俺の方が上であると分からせてやるんだ!」
自己中心的なランドの言い分。
──結局、コイツは自分がのし上がることしか考えていない。
きっと他者のことなど考えていないのだ。
……だからこそ、ランドは冒険者の掟を破ってまで、俺に襲いかかった。
──自分の人生の栄光を望み、他人の迷惑を考えない、か。
今度は、ランドの喉元にナイフを突き立てる。
「んなっ──!」
「……お前は、ここらで殺しておいたほうがいいのかもしれないな」
「ひいっ!」
ドスの効いた脅し文句を聞き、悲鳴を上げたランドは、そのまま気を失った。
──小物ってもんだな。
もちろん、俺はランドを殺す気なんてなかった。
冒険者家業を続けるために規則は破れない。
だから、街中で人殺しをするなんて愚かな行いはしない。
「たくっ、今日はついてないな」
意識の飛んでいるランドを置き、その場を立ち去ろうとする。だが……。
「レオッ⁉︎」
「えっ、嘘……」
──次から次へと。
「……よう。久しぶりだな」
カナとラウラ。
2人は俺の方を驚いたような顔で見ていた。
「どうして、レオが? もしかしてパーティに戻ってくれるの?」
嬉しそうな顔で歩み寄ってくるカナ。
心底反吐が出そうな気分であった。
──コイツも、ランドと同類ってことか。
一喝でもしてやろうかと、そう考えていたが、カナを引き止めるラウラの様子を見て、口を紡ぐ。
「待って、あそこにランドが倒れてる」
「えっ⁉︎」
「多分、レオを強引に勧誘して断られたってことだと思う」
「じゃ、じゃあ……」
「レオは、戻ってこない」
【聖剣の集い】の中で唯一まともな考えを持っていたラウラ。
──ランドに毒されてないなんて、珍しいな。
ラウラは、俺の役割がどれほど重要なものであったのかを1回目にした依頼失敗の時に認識してるかのような瞳であった。
そして、認めていた。
だからこそ、過去にした酷い仕打ちを後悔していた。
「レオを追い出したのは、私たちの方。今更戻ってきてほしいなんて……身勝手そのものだよ」
「そんな、でもレオが戻ってこないと私たちは──!」
──残念ながら、ラウラの言う通り俺に戻る気はない。
「俺は戻らないよ。さよならカナ、ラウラ」
「レオ!」
カナの叫び声が背後から聞こえてきたが、俺が振り向くことはない。
カナが走り出そうとするのは、ラウラが制止していた。
──ごめん、レオ。
せめて迷惑がかからないようにと、罪滅ぼしの意味合いを込め、ラウラは俺が立ち去るのを見守った。
ただ無心で目的地へと向かう。
過去を切り捨て、希望を与えてくれた仲間のところへ。
──俺は【聖剣の集い】に戻ることはない。
──更なる高みを大事なパーティメンバーと共に目指していくのだから。
この日。
俺は、ようやく過去と向き合い、全てを終わらせることができた気がした。
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