第10話 3年越しの再会





「よぉ、久しぶりだな」


 ──今更、なんだよ。


 俺は、1番会いたくない人物と出会っていた。

 かつての仲間であったランド。

 【聖剣の集い】のリーダーであり、3年前に俺を追い出した張本人でもある。


 3年が経ち、あの頃の嫌な思い出は薄れてきた頃であった。けれども、その顔を見た瞬間に鮮明に嫌な記憶を思い出した。



 【聖剣の集い】


 俺にとっては、因縁のある冒険者パーティ。

 過去の輝いていた面影はなく、廃れたという【聖剣の集い】の噂をよく聞く。

 そんなすっかり落ちぶれたランドとの邂逅に疑問を抱いていた。


 ──何をしにきたんだ?


 急なランドの登場。

 俺は、警戒心を最大限に引き上げる。

 裏切られた相手。

 今度は何を企んでいるのかという視線を向けるが、ランドはそれに気付く素振りもない。


「……俺に何か?」


「おいおい、一緒に組んでた間柄なのに、随分と冷てぇじゃねぇか」


「まあな」


 ──どの口がそんなこと言ってんだよ。


 ランドの馴れ馴れしい態度は、気に障る。

 まるで以前に行った仕打ちを帳消しにしているかのように、無遠慮な接し方。


 ──俺は、コイツと話すことなんてないんだけどな。


 過去はもう清算した後だ。

 今はもう、【エクスポーション】の仲間たちと共に先へ進むことを決めた。

 振り返ることなんて何もない。


「悪いが、俺は今から忙しいんだ。お前の活躍を陰ながら祈っているよ」


 立ち去ろうとするが、俺の腕をランドは物凄い力で鷲掴みにする。


「おいおい、久々に会ったってのに、そんな突き離すようなこと言うんじゃねぇよ。俺らの仲だろ?」


「お前との関係は、あの時に終わっている」


「……いや、あの時は悪かったよ。俺が間違っていた」


「へー」


「だから……」


「だから?」


 ニヤニヤとしたランドは、仲直りの握手でもしようという感じに開いた手をこちらに突き出す。


「やり直さないか? 俺たちなら、最強の冒険者を目指せると思うんだ!」


 ──はぁ?


「……お前の言っている意味が分からない。やり直す? そんなの無理に決まっているだろう」


 秒もかからない間に、差し出された手を振り払う。

 ランドは一瞬ポカンとした顔をしていたが、すぐに顔色を媚びへつらうようなものへと変える。


「な、なんでだよ……俺たち、一緒にSランクの冒険者パーティを目指そうって、そう誓っただろ?」


「ああ、そうだったな……だが、最初にその約束を反故にしたのは、お前だランド」


「──っ!」


「俺はもう、お前と一緒に組みたいとは思わない。ちゃんと居場所を見つけたから」


 冷たく告げ、俺がそのままその場からいなくなろうとすると、縋るようにランドはレオの膝あたりにしがみつく。


「頼むよ! 俺にはお前が必要なんだ! このままじゃ、俺らの【聖剣の集い】がランクを上げるどころかDランクに降格しちまう! ……レオ、助けてくれよ。仲間だろ?」


 ──仲間、か。……本当に最後まで馬鹿にしやがって。



 違うだろ。



 もう仲間ではない。

 俺の心情をランドは知らない。

 追放された時の屈辱と悲しみ。

 味わった者でなければ、あの心臓を握りつぶされるような耐え難い痛みを知るわけがない。


 ──俺の仲間は、今のアイツらだけなんだよ。


 頭の中には、【エクスポーション】のメンバーの顔が浮かぶ。

 過去の仲間などという思い出したくもない存在の入る余地なんてない。


「……悪いが、やっぱり無理だ」


「お前は……俺たちを見捨てるのか?」


「見捨てる? ははっ、見捨てるんじゃない。俺はお前らに捨てられたんだ。捨てたゴミをご丁寧に拾いにきたのは、感心するが、そのゴミはもうお前らの所有物じゃない!」


 ──そのゴミが今やSランクパーティ、守護の要。お前らの消えてほしい存在だった俺は、お前らに捨てられたお陰で、夢を叶えた。


「俺は念願のSランクパーティの一員になれた。今の居場所を捨てて、お前らとやり直す気なんてない」


 俺の言い分はもっともであろう。

 実力を認めてくれた仲間を遠ざけたりはしない。


 過去の腐れ縁。


 その程度の繋がりが1番に優先されるのであれば、俺はきっと追放された時に精神を崩していたことだろう。

 ──結局、心のどこかで追い出されることを予感していたんだ。ランドたちとの関係性が、あの時点で既に断たれていたことも、全部全部理解していた。


 ──あの頃の俺は、そんな現実を見ないふりしていただけだ。


「今の仲間が大切だ。俺が抜けるわけにはいかない」


「レオ……」


「俺はもうお前らと違うんだ! Sランク最強パーティの一角を担っている。……だから、お前のパーティには戻らない」


 ランドは、こちらの言葉を聞こうとしなかった。

 耳を塞さぎ、地団駄を踏む。


「ふ……ざけるなよぉっ! 俺がこうやって頼んでやってんのに……レオのくせに偉そうに……」


「今の俺は、お前ら【聖剣の集い】よりも遥かに格上だ。舐めるなよ」


「上等だよ……お前が、泣いて詫びて、俺のところに跪く様を世界に知らしめてやる!」


 ランドは街中であるにも関わらず、剣を抜く。

 ──愚かなやつだな。それは冒険者としての規約違反だ。

 ランドは、屈強な大男である。

 全てを打ち砕くような重厚な大剣。

 振り回され、それが命中すればひとたまりもない。


「土下座して謝って、俺の下に戻ってくれば命だけは助けてやる!」


 ランドの凶悪な顔面に呆れた感情を抱きながらも、レオは構える。

 メイン装備の盾ではなく、採取用に扱っている小型ナイフを握る。

 ──どこまでも、馬鹿な男だ。お灸を据えてやらねぇとな。


 俺は、静かにランドと対峙した。


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