第9話 憤怒は募る(ランド視点)





「くそっ!」


 俺はランド。

 【聖剣の集い】のパーティリーダーだ。

 酒を飲み、溜まった鬱憤を発散する。


「なんでなんだよ。たくっ!」


 理由は、冒険者パーティが上手く機能していないからであった。

 ただ立って敵の攻撃から身を守っているだけのレオを追放してからである。俺らのパーティは、歯車が狂い出した。


 攻撃特化型のパーティ。


 俺はそれを目標としていた。

 盾役なんていらない。

 攻撃を受ける前に敵を倒せばいい話なんだから。

 幸い、うちには回復魔法を使える優秀なヒーラーがいる。

 補充すべき人員は、攻撃に特化した者を入れてしまえば、狩りの効率も上がり、【聖剣の集い】がBランクになる日もそう遠くないだろう。


 ……そんなことを考えていたのが甘かった。


「ぐあっ……」


「うぐっ……」


「ランドっ! ……いや、なんでなのよ。カナ、回復早くっ!」


「ま……魔力がもう、これ以上……魔法は使えない」


「そんな……」


 依頼中にあっさりと俺たちはモンスターの群れに襲われ、陣形を崩壊させた。レオの後釜として加入した剣士と俺は、致命傷を負い、回復魔法をこれまで以上に多く使用したカナは魔力切れ。

 ラウラも前衛が離脱したことでまともに詠唱のチャンスを得られず、結局退却するしかなかった。


 結果、命を落とすことはなかったものの、俺たちのレオ抜きでの最初の依頼は失敗に終わってしまった。

 新しく加入した剣士も、大怪我を負い、たった1つ依頼を共にしただけでパーティを辞めていってしまった。



「……あんな無茶苦茶な攻略があるか。無防備に周囲の警戒もしないで突っ込んで。よく今まであの難易度の依頼をこなしてこれたな。……俺はもう、アンタたちには付き合いきれねぇ……」


 去り際に男は、馬鹿にするかのような言葉を残していった。

 ……くそっ! 

 何が付き合いきれないだ!

 お前の代わりなんて探せばいくらだっている!

 新進気鋭のCランクパーティ【聖剣の集い】。

 うちに入りたいという冒険者は星の数ほどいる。


「……ウチは、こんなところで、躓いているようなパーティじゃないんだよ」


 俺たちは強い。

 Cランクに上がれるだけの実力を兼ね備えている。


「カナ、ラウラ。次の仲間を探しに行く」


 だからこそ、俺は積極的に火力の高い者をパーティに引き入れ、高難度の依頼に何度も挑戦し続けた。


 ……だが、


「悪いな……こんなの、命が何個あっても足りないや」


「死にたいんなら、勝手に死んでな」


「ごめんなさい……私には無理です」


「……辞めるよ、こんなパーティ」


 成果は、全く上がらなかった。

 新しく入ってきた仲間は、依頼を共にこなしたら、次々と辞めていく。

 誰も俺らのパーティに定着しない。

 依頼は失敗続き。

 【聖剣の集い】の評判も、過去の1番輝いていた頃とは別物となり、初心者の集まり、烏合の衆などと誹謗中傷を受けた。


 許せない。

 俺らを馬鹿にするな!

 俺らはCランクパーティだぞ!

 俺らが弱いわけがない。


 込み上げてくる衝動的な怒り。

 抑え込めないほどに溜まるフラストレーションを発散するために俺は酒に溺れた。


「ランド……もう、飲み過ぎだってば」


「うるせぇ! お前は黙ってろよ!」


「ひっ……」


「俺に指図するんじゃねぇよ……ヒック」


 パーティのリーダーは俺なのに、カナやラウラは咎めるようなことを言ってくることが増えた。

 それが本当に嫌であった。


 あいつらは、俺の指示に従って動いていればいい。

 なのに、思い通りにあいつらが動いてくれないから、俺の戦闘も苦しくなるし、依頼をこなせずパーティの評判も落ちる。


「俺は……ランド様、だぞ」


 レオなんていらないはずだ。

 ただ盾を持って突っ立っているような能無しに、抜けられたところで困るはずがない。これまでのは偶然だ。きっとこれから成果が上がることだろう。


「ねぇ、ランド……。やっぱり、レオに戻ってきてもらおうよ」


「──っ! 黙れって!」


「きゃっ!」


 酒の入ったグラスをカナに投げつける。

 カナは震える。

 そして、恐怖に怯えた視線を向けてくる。


 ……やめろ。


 俺をそんな目で見るんじゃねぇ。

 俺が悪いみたいになるじゃねぇか!

 俺は悪くない。

 レオを引き戻そうなんて、くだらないことを言い出したカナが悪いのだ。


「おい……」


「っ……」


「二度とレオなんて名前を口に出すんじゃねぇ。分かったか?」


 カナは涙目のままに頷いた。

 こんなはずじゃなかった。


 ……【聖剣の集い】は、上に這いあがり、黄色い声援を一身に浴びるようなパーティになるはずだったんだ。

 今に見てろ。

 俺らの凄さを周囲に知らしめてやる。


 ──だが、あいつがどうしても戻って来たいと言うのであれば、戻してやってもいいかもしれない。

 そうだ。

 明日辺り、会いに行ってみるか。

 3年ぶりに俺が戻ってこいと言えば、アイツはきっと泣いて喜ぶはずだ。

 盾役なんて、パーティにおいての貢献度は低いが、すぐに辞めていく根性なし共よりはマシかもしれん。雑用でもなんでもやらせる奴隷みたいな人材もちょうど欲しかったところだ。


 レオ、お前はどうしようもない役立たずだが、俺がせいぜいお前のことを有効活用してやるよ。



 ランドは薄気味悪く笑う。


 過去に捨てた仲間を自己都合にて呼び戻す。

 彼の考えは本当に自分中心に回っている身勝手なものであった。


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