第8話 自由なアレン






 アレンがモナに連れて行かれて小1時間。

 玄関の扉が開く音と共に2人はようやく帰ってきた。


「やあ、お待たせ!」


「ちっ……動きが化け物過ぎるわ……」


 アレンがピンピンしている。

 ──こいつ、本気でモナとやり合ったんだな。傷1つない。

 俺の視線は大人気ないやつに向けるようなものであった。

 実際そうなのだから、間違ってはいない。


「いやあ、モナの気迫が凄かったよ」


「気迫だけって言いたいわけ⁉︎」


「……攻撃も重かったよ」


 口論においては、完全にモナが優勢であるが、戦闘面の実力では、我がパーティの攻撃の要を担っているアレンが頭ひとつ抜けている。

 だからこそ、対面での強さが遺憾なく発揮され、モナは疲れた顔をしていて、アレンはノーダメージなのである。


「お疲れ様、モナちゃん」


「うん」


「お風呂も沸かしてるから……汗かいたでしょ?」


「そうね。……じゃあ、行ってくる」


「着替えとタオルは、脱衣所に置いとくね!」


 女子組の仲良しな様子を見つつ、俺は俺でアレンにコソッと声をかける。


「……どうだった?」


「いや、もう殺されそうなくらい睨まれた」


 ──だろうな。


 元々アレンとモナは相性が悪い。

 これは、2人の性格が合わないという意味ではなく、境遇による相性不一致であった。

 アレンは女性関係のトラブルで所属していた冒険者パーティを抜けた。

 同様にモナも男性関係で色々あったのだ。


「まあでも、最後の方は結構楽しそうな顔をしていたよ。僕も、久々にモナと真剣勝負が出来て、気持ちよかったしね」


「そりゃ、良かったな」


 アレンは満足そうな顔で、俺の肩に手を回す。


 パーティにモナが加入した当初。

 アレンとモナはギスギスした感じであったが、今では煽り合えるような間柄になっている。時間の経過が2人の関係を軟化させたのである。


「さて……飲むか!」


「いや、お前も風呂入れよ。臭いぞ」


「モナが先に行っただろ。僕はそれまでレオと飲んでいたい」


「酒飲んでから風呂入ると、最悪死ぬらしいぞ」


「えっ……」


 ──まあ、人伝に聞いた話だがな。


 こちらの脅しに怯んだのか、アレンは大人しく席に着き、「はぁ……」と寂しそうなため息を吐いた。

 ──素直に人の話を信じるところは、コイツのいいところだな。扱いやすいし……。

 そんな風にアレンを見ていると、アレンは不意にキョロキョロと周囲を見渡す。


「ところで、リーダーは?」


 アレンの質問に俺は2階の寝室がある場所を指さす。


「酔い潰れたから、寝室に運んどいた」


「なるほど……」


「やめろよ。お前まで酔い潰れたら、またお姫様抱っこして運ぶ羽目になるんだから」


「役得とでも思ってくれよ」


「なんで、野郎を運んで役得扱いになるんだよ」


 ──たく、すぐ調子に乗るなぁ。

 アレンにデコピンをし、俺も席に座る。

 そうして、軽くつまめる料理を手に取りながら、アレンとアルコールの含まれていない飲み物で乾杯をする。


「お疲れ様」


「レオ、君に背中を任せるのが本当に楽でいい。これからもよろしく頼むよ」


「ああ、こちらこそ」


 男2人。

 年齢も近いため、俺とアレンは親友であり、相棒という関係性であった。



 ──明日からも頑張るか。



 普段通りの決意表明を心の中で宣言して、楽しい夜をSランクパーティ【エクスポーション】のメンバーたちと過ごすのであった。


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