第5話 全てを見通す瞳
『おい、アレン、レオ! 新入り加入だ!』
……本気で連れてきちゃったよ。しかも、なんか儚げな顔してる少女は! ……誘拐とかじゃないよな?
白髪の少女は俯いたまま話さない。
早速犯罪者パーティとしての確立を疑ってしまったが、それは違っていたようである。
『紹介するぜ。この子がうちの新メンバーだ!』
『……』
俺より少し年下くらいの少女。
服はところどころが黒く焼け焦げており、髪もボサボサである。
あまり元気もなさそうだ。
スラムから連れてきた孤児か?
初見の印象はそんなものであった。
貧しい者が多く暮らすスラム。
身寄りもない女、子供が、飢えて死にそうになるなんてことは日常茶飯事だ。
『保護したのか?』
『いんや。俺はなぁ、慈善活動なんてことはしなぁ主義だ』
『はぁ、そうか』
ヴィランははっきりとそう言った。
なら何故、こんな小汚い少女を連れてきたのだろうか。
冒険者は体が資本である。
弱っているような女子はとてもじゃないが背中を任せられるような状態ではない。
保護者として抱えこむとしても、金銭的な余裕もないのに、どうして連れてきたのかと疑問を抱く。
『その子を養うってのか?』
『だからちげぇって! ……うちの大事な戦力になって貰うんだよ』
『──っ! 何考えてんだよ……』
『俺の見立てに間違いはない。こいつは化けるぞ』
まるで信じられなかった。
根拠のない勘によって、パーティに弱々しい少女を持ち帰ってくるなんて、下手をすれば、冒険者パーティ崩壊の危険に晒される恐れがある。
足手まとい。
……けれども、そんな言葉を口に出してやる気にはなれなかった。
『……本気か?』
俺の質疑にヴィランは、至極真面目な顔で、
『本気に決まってんだろ。しつこいぞ』
そう一瞥した。
もうどうにでもなれ。
これ以上堕ちるなんてことはないだろう。
くそみてぇな人生歩んで死んでくだけだとか、諸々言い訳を頭の中で考えて、俺はヴィランの考えを尊重した。
……腹を括って、たった一言。
『分かったよ』
ヴィランは嬉しそうに親指を立てる。
呆れて声も出なかった。
こんな我儘に付き合ってやったのは、きっと少なからずヴィランに恩を感じていたからだ。そうでなければ、考えうる限りメリットの皆無なこの話を簡単に認めることなんてなかったことだろう。
『安心しろ。ちゃんと戦力になる』
『はいはい』
『本当だぞ! 彼女は俺らがSランク冒険者になるために必要な人材だ』
俺は笑う。
嬉しかったからではない。単なる苦笑いだ。
Sランク冒険者というのも、目の前にいる今にも死にそうな女の子が優秀な人材であるというのも……そんなことあるわけないだろ、と。
その時の痩せ細った少女が、まさか美人で天才肌の才女。
【純白の聖女アイリス】なんていう凄腕の魔法使いになるなんて、この時の俺は予想もしていなかった。
今では、彼女はうちの頼れる魔法使いのアイリス。
内気な性格は、最初の頃から変わっていないが、それでもアイリスの存在は、パーティに必要不可欠なものだ。
ヴィランの瞳は、俺が想像しているよりも遥かに的確なものであった。
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