第4話 伝説の始まりは、ゼロスタートから……



 Cランクパーティ【聖剣の集い】を追われた俺は、今の生活を幸せに感じている。

 信頼できる仲間と出会えたことがその大きな要因だろう。

 なにより、同じような辛い境遇を辿ってきた者たちで集まっている。


 自分が裏切られる気持ちを理解している者同士、連帯感もあった。


『お前は、このパーティに相応しくない』

『貴方はもう、必要ない』

『私たちのあしでまとい』


 あの時の言葉は未だに心の傷を抉っている。


 信じて共に戦ってきた仲間たち。

 しかし、彼らにとって俺は消えて欲しいほどに邪魔な存在であったようだ。


『俺たちの前から消えてくれ』


 このパーティに入ることがなければ、きっと彼らのあの時告げた言葉を恨み続け、醜い私怨を抱き続けながらの生活を送っていたかもしれない。

 復讐に駆られて、彼らを襲っていたかもしれない。

 もしかしたら、という話に意味などない。

 それでも、考えざるを得ないのだ。


 ……もしかしたら、俺が彼らに真実を打ち明け、冒険者としての真価を発揮していれば、死ぬまで一緒に冒険できたのかもしれない。

 たまたま得たものがあっただけだ。

 失った喪失感を拭いきることはできない。

 だからこそ、また失ってしまうのが怖いのだ。


 今の生活を本当に気に入っているから。


 あの頃、Fランクパーティとして【聖剣の集い】を結成したワクワク感を忘れたりはしない。ゼロから始めた冒険者としての道。

 【エクスポーション】も同じであったのだ。

 Fランクスタート。

 見知らぬオッサンであるヴィランと失意に溺れたような顔をしたイケメンなアレンが最初期メンバーであった。


『今日から俺らは、Fランクパーティ【エクスポーション】として始動する! 異論はないな!』


 ガハハと馬鹿笑いするヴィランのおっさんは、どんよりした空気感を漂わせる俺とアレンのことなど気にしてないかのように快活であった。


『目標は、Sランクパーティだ! 頑張ろうぜ、お前ら!』


 嘘だろ、と。

 その時の俺は考えていた。

 だって、Sランクパーティなんてもの、今現在国に2パーティしか存在していない。



 冒険者の誰もが憧れる境地。



 そこに至ろうとした者がいったいどれほどいるのだろうか。多くのものが憧れを抱き、それでも夢潰える。それがSランクパーティというものだ。


 そんな俺も、【聖剣の集い】に所属していた頃は、Sランクパーティになることを仲間と共に目指していた。


 ……本当に馬鹿らしい。


 そんなもの無理に決まっているだろう。

 追放という落第者のレッテルを貼られ、現実を見せられた俺にとって、ヴィランの言葉を本気で馬鹿らしいと思っていた。

 目の前の死んだ魚みたいな目をしているアレンのことも、目に入っていた。

 直感的に同類を肌で感じた。

 半端者を寄せ集めたような3人。

 こんなんで、Sランクなんて目指せるかよ!


 ……まさか、本当にSランクになっちまうなんて、この時は想像できなかった。


 なにより、パーティ名。

 込められた想いは『復活』だそう。

 なんだよ、このおあつらえ向きな名前は! 

 俺の境遇を馬鹿にしてんのかよ、と。


 まるで、堕ちた奴らがとでも言いたげな感じ。

 荒れていた当時は、目の前のヴィランに貶されているような気がしていた。しかし、今思えばそれは違う。


 追放者同士の集まり。


 俺は冒険者パーティを追放。


 ヴィランの境遇はあまり聞かなかったが、大雑把な説明では、国を追われたらしい。


 アレンに関しては、痴情の絡れによるトラブルで所属していた冒険者パーティを抜けたそう。


 各々に事情があるにせよ、何かしら不利益を被り、居場所を失ったことに他ならない。

 だからこそ、ヴィランはパーティ名を【エクスポーション】なんていうものにしたのだろう。



 ──翼の折れた俺たちが、再び羽ばたく時を予見して……。

 本当に、ヴィランの度胸は凄いものだ。



『さて、まずは新規メンバー集めだな! 最低限の人数を確保はしたが、もう少し欲しい。できれば、パーティに華が欲しい!』



 お前の願望を垂れ流すなオッサン……。



 そんな罵倒を心の中でしていた。

 しかし、ヴィランはその願望を本当に叶えてしまうのであった。


 そんなこと予測できるわけがない!

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