Op.01 蒼の狭間で④
「ここからが新しく入った情報ですが、この新型機が目撃されるようになってから、オグレット海の沿岸地域で軍用機が行方不明になる事件が相次いでいるようです。アルトリア軍からも既に三機がレーダーから消え、機体の残骸も、乗っていたパイロットの遺体も発見されていません」
スライドが動き、地図上にアルトリア軍機が消息を絶った地点と、それに乗っていたパイロットの顔写真が表示される。皆あどけなさの残る顔立ちをしていて、一目でキリナたちと同じ少年兵だと解った。
「行方不明のパイロットの共通点は、全員『ホーム』の出身者、つまり異世界から転移してきた少年兵という点です」
キリナの心臓が大きく脈打つ。隣に座るミサもハッと息を呑むのが解った。
分析官はキリナたちの様子に気付いたらしく、緑色の瞳をこちらに向けてくる。
「そう、行方不明になっているのはキミたちの同類なんです。これを見てください……」
一人の少年の写真が拡大され、画面の半分を占める。もう半分にはノートに綴られた文章が表示された。
「このパイロットが消息を絶った後、彼の部屋からこのノートが発見されました。そこには彼が『火の国』に参加し、元の世界の記憶を提供するという内容が書かれていました。恐らく『火の国』は新兵器の開発のために異世界の情報を求めているのかもしれません」
分析官の話を聴いていたミサが「異世界で知識無双ってことですか……」と呟く。分析官は「味方なら心強いですが、敵に回すと厄介です」と頷いた。
「また、彼のノートには『火の国』が協力の見返りとして異世界転移のやり直しを提示していると書かれていました」
異世界転移のやり直し……キリナはその言葉に強く興味を惹かれた。
「転移してきた子どもたちの中には、この世界に不満を持っている者がいます。もちろん、そんなことが可能とは思えませんが、一定の条件が揃えば餌としては充分効果を発揮するでしょう」
分析官の話の通り、今のキリナは「火の国」へ参加することに強い魅力を感じていた。
もし異世界転移のやり直しができるのなら、その応用で元の世界に戻ることもできるかもしれない。そうすればキリナは再び彼女の胸に抱かれて泣くことができる。もう強がる必要はなくなるのだ。
しかし、キリナは拳を握りしめて「火の国」の誘惑を拒絶する。相手は国家を自称し、この世界の国際秩序を乱そうとするテロリストだ。この世界の市民として、戦闘機を与えられたパイロットとして、「火の国」に寝返る訳にはいかない。
「すぐわかるような嘘に騙されるなんて、バカな連中ですね……」
いつの間にかそんな言葉が口から漏れていた。
一同の視線がキリナの方に向く。ミサとコナー少佐はキリナが急に口を開いたことに驚いているようだった。分析官は表情を崩さないまま「いつでも嘘を見抜けるとは限りません」と言った。
「自分は騙されないという慢心は危険です。ターゲットのプロフィールを徹底的に分析し、心の隙間を狙うのは情報戦の基本です」
「まるで私が『火の国』に参加したがっているような言い方ですね?」
「そうは言っていません。しかし、誰でもその危険があると考えた方が良いでしょう」
「私は元の世界を恋しがるほど幼稚じゃありません。過去は全て捨ててきました」
ムキになっている。それを自覚しながら、冷静にはなれなかった。
「元の世界で良い事なんて無かった。どうせ戻っても、また母に嫌味を言われる生活に戻るだけです。だから、私は絶対に……」
言っているうちに恥ずかしくなってきて、最後は「騙されません」と声に出すことなく口を閉じてしまった。その後、キリナはブリーフィングが終わるまで口を開かなかった。
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