1日目
そのギアの識別番号は、1008です。
父と母は、そのギアを「透哉(とうや)」と名付け、仮面に名前を書きました。
・
透哉が目を覚ますと、
「それじゃ、さっそく透哉に言葉を教えないといけないな」
と、父が言いました。
透哉は父からこの世界の言葉をある程度教わり、自分が思ったこと、考えたことを話せるようになりました。
透哉はまず、自分と父が同じ見た目をしていることが気になりました。違うところと言えば、父が首にかけている首輪くらいです。透哉の首には首輪がありません。
「なんで、お父さんもお母さんも僕も、全く同じ見た目をしているの?」
透哉は父に訊きました。
「それはな、見た目が違うギアは、この世界から追放されてしまうからだ。追放していった結果、同じ見た目のギアが多く生まれるようになったんだ」
「なんで追放されてしまうの?」
「なぜかは分からない。でも、そう決まっているんだ」
父は透哉の質問にテキパキと答えます。
「おれはこれから仕事に行かなければいけないのだが、他に聞きたいことはあるか? 教えられることは今のうちに教えておかないと、おそらくこれから会うことはできなくなるからな」
父は小さく足踏みしています。
透哉は、父の慌ただしい様子が気になります。
「なんでお父さんは、そんなに急いでいるの?」
父は、この世界の真ん中にある大きな樹・世界樹の上にある、大きな円い時計を指さしました。針が一本しかない時計には、上に24、下に12と書かれています。
「あれが見えるか。あの時計は24から始まる。そして針がもう一度24のところを指したら1日になる。あれが7周したとき、つまり7日間を生きたとき、ギアは死ぬんだ。必ずそうなる」
「じゃあ、僕はあと少しで死んじゃうの?」
「ああ。正確には、7日目のうちに死んでしまうから、針が7周するのを見届けることはできないが。おれたちギアはみんな7日で死ぬから、この世界には『ナノカジマ』という名前がついているんだ」
透哉は、せっかく生まれたばかりなのに死んでしまうのは悲しいと思いました。
父は忙しそうにしながらも、話を続けます。
「ちなみにこの7日間は、1日ごとにやらなければならないことが決まっている。おれは5日目のギアだから、透哉に言葉を教えているわけだ。5日目にやらなければいけないことは、子供を生み育てることと、3日目からやっている仕事を続けることだからな。今日は特に忙しい日なんだ。決められたことをしないと追放されてしまうから、おれは急いでいるんだ」
「その7日間の間に、僕はどんなことをやらなければならないの?」
「説明すると、こうだな。
1日目は、ナノカジマの全ての言葉を覚える。
2日目は、覚えた言葉を使っていろいろな勉強をする。
3日目は、仕事を選び、働き始める。
4日目は、結婚して、交尾をする。仕事をする。
5日目は、生まれた子供を教育する。仕事をする。
6日目は、仕事を辞める。自由になる。
7日目に、死ぬ。
では、おれは仕事に行かなければならない。このまま透哉に言葉を教えていたら、仕事をせずに1日が終わって、追放されてしまうからな」
そう言いながら、とうとう父は歩き出し、透哉から離れていきます。
「透哉はこのままここにいるんだ。そこに本が置いてあるだろう。それを見て、おれがまだ教えていない全ての言葉を覚えなさい。分かったね?」
「分かった」
透哉は、そばに置かれていた一冊の分厚い本を手に取りました。
「この島では、決まりに従わないギアは追放されてしまうから、くれぐれも気を付けなさい」
そう言い残し、父は急いで仕事に行ってしまいました。
透哉は本を持ったまま、去っていく父の背中を呆然と見つめます。
それから、透哉は父の言葉を思い出し、置かれていた本を見て言葉を学習しました。
ちなみに、父に言葉を教わっていた間、母は近くでその様子を見守っていましたが、いつの間にかどこかに行ってしまいました。仕事に行ったのかもしれません。
透哉は孤独になりましたが、追放されるのはなんとなく嫌だと思ったので、難しい言葉も必死に覚えました。
そうして透哉が言葉を全て覚え、時計を見ると、針は24を指していました。
なんとか追放されず、決められた通りに1日目を終えることができました。
しかし、やれやれと安心したのも束の間、透哉のところに竹刀を持った2体のギアが現れました。
「お父さん……? じゃない……」
透哉は一瞬、父が自分のところに帰ってきたのかと思いましたが、仮面に書かれている情報を見て、違うギアだと分かりました。
「お前、2日目のギアだな。お前を連行する」
透哉は状況を理解できないうちに取り押さえられ、世界樹の中にある暗い部屋に連れていかれました。
「僕はどこに連れて行かれるんだろう?」
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