2日目
暗い部屋には何百体ものギアが集められていて、透哉もそこに合流させられました。
竹刀を持った2体のギアが透哉たちの前に立ちます。2体とも、竹刀を何度も地面に叩きつけ、仰々しく音を鳴らしながら、集まったギアを威嚇します。
怯える透哉たちに対して、2体のギアは自分たちのことを「キョウシ」と名乗りました。キョウシの2人は大きな首輪をしているので、集められたギアたちとの違いがすぐに分かります。
「今からお前らには、この世界のことについて勉強してもらう。内容は、主にこの世界の決まり事や、特殊な文字を使った計算、暗記だ。不出来な奴はこの世界に必要無い! 死ぬ気でやれ!」
1体のキョウシが、持っていた竹刀を強く地面に叩きつけて言いました。
「ここで教える勉強の得意不得意が、次の日の仕事選びに大きく影響してくるからな。今日の最後に試験を行うが、それに合格できない奴は追放するぞ」
もう1体のキョウシはそう言いながら、指をコキコキと鳴らしています。
集まったギアたちから「追放は嫌だ」と悲鳴が上がります。
そのとき、1体のギアが手を挙げて言いました。
「俺の名前は豊(ゆたか)です。質問なのですが、どうして勉強ができないギアは追放されなきゃいけないんですか? 勉強ができなくても、生きていけると思いますよ」
豊の発言に、ギアたちはざわめきます。
それに対してキョウシは、
「明日からお前らは3日目のギアになる。ギアは3日目に仕事を見つけなきゃいけないきまりだ。勉強の成績が悪い奴は仕事で使えないから、どっちみち追放される運命なんだ。だから2日目の段階でふるいにかけるんだ」
と、答えます。
「勉強で全てが決まるなんて、そんなの納得できない。僕はこんな世界嫌だ」
キョウシの言うことに納得できなかった様子の豊は、キョウシに背を向けて歩き出し、部屋を出て行ってしまいました。
「勝手にしろ!」
1体のキョウシは怒鳴りました。
「まあ、あいつにはもう、生きる場所なんて無いんだ。別にいいじゃないか」
もう1体のキョウシは、諫めるように言います。「しかしもったいないなー。いい仕事に就けば7日目まで安心して生きられるのに。6日目と7日目に死ぬまでの残り時間は自由になれるのに。しかし彼はイレギュラーだったか。ああ、残念だ」
「他に出て行きたいやついるか? あんな馬鹿なことするやついないよな?」
キョウシは訊きますが、怒鳴った余韻がまだ部屋に漂っていて、出て行ける雰囲気ではありません。
案の定、誰も出て行かず、その場に固まります。
「よし、他に出て行くやつはいないな。ここに残ったお前たちはこの世界の宝だ。さあ、これから勉強を始めるぞ」
先ほど声を荒らげたキョウシは、豊を怒鳴った声とは一変、優しい声を作って言いました。
透哉には、キョウシが言う「自由」という言葉が、何を意味しているか分かりません。しかし、6日目と7日目には何か良いことがあると信じて、勉強を頑張ることにしました。
キョウシからいろいろなことを教え込まれ、透哉たちは試験に臨みました。
「試験に合格しないと追放される」というプレッシャーをかけられていたため、全ギア死に物狂いで、合格をつかみ取りました。
試験を乗り越えたギアたちは、キョウシたちに拍手で祝福されました。
「おめでとう。君たちは3日目から仕事に就く権利を得た。試験の成績や得意不得意によって、どんな仕事に就くか割り振っていくから、呼ばれたギアは前に来て首輪を受け取るように。その首輪には、君たちがこれから就く仕事が書かれている。確認したら首に取り付けるんだ」
順に首輪を受け取っていき、透哉の番がきました。
「その首輪は、3日目を迎えたギアが必ず首につけることになっていて、何があっても外れないようになっている。自立したギアになったという目印だ」
「ありがとうございます」
透哉は、父やキョウシたちがしている首輪の意味を初めて理解しました。受け取った首輪はずっしりと重く、期待と責任が凝縮されているように感じます。
ドキドキしながら首輪を見ると、「ミトドケヤク」と書かれていました。
——ミトドケヤクって、何だろう?
疑問を感じながらも、ひとまず、透哉は言われた通りに首輪をつけました。
首輪をつけたら息苦しくなり、首や背中や腰が疲れ始めましたが、しばらくしたら慣れてきました。
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