吠える教皇

「初めまして、ギルバート=オブ=ブルックスバンク小公爵様」


 左胸に手を当て、恭しく一礼する黒の修道服をまとった女。


 ――シェイマ=イェルリカヤ、その人だった。


「はは、とうとうヘカテイア教団のトップがお出ましか」


 シェイマ=イェルリカヤを見据えながら、僕は口の端を持ち上げた。

 その黒の修道服とは対照的な純白の髪、妖しく輝くオニキスの瞳、整った鼻筋にぷっくりとした唇が、褐色の肌に映えている。


 どう見ても二十代の女性にしか見えないが、実は齢五十歳を超える。

 まあ、僕にはそんな趣味は一切ないのでキモチワルイという感想しか出てこないが。


 なんでそんなキャラ設定にしたかって? 需要があるからだ。

 僕はどうしてもweb小説サイトのランキングトップになりたかったし、本が売れてほしかったんだよ。


「ところで、貴様が直々に最低な呪いをかけたシアはともかく、よく僕のことまで知っているな」

「もちろんです。せっかく女神ディアナの代理人、フェリシア=プレイステッドにかけた呪いを解いてしまうばかりか、レディウスの街でもアルカバンをはじめ部下がお世話になりましたので」


 ニコリ、と微笑みながら僕の言葉に答えるシェイマ=イェルリカヤ。

 だが、そのオニキスの瞳は一切笑ってはいない。


「はは、東方の国々では圧倒的な力を持つヘカテイア教団の教皇に覚えがめでたいなんて、なかなか僕も有名になったものだな。ただ」


 そう言うと、僕はランスの切っ先をシェイマ=イェルリカヤへと向けた。


「教団のメンバーの大半がここで打ち倒され、教皇である貴様も終わるとなれば、有名となった僕の名も一緒に、東方でも忘れられてしまいそうだがな」

「ご冗談を。忘れられるのは小公爵様のほうですよ。だって、ここで聖女・・共々果てるのですから」

「っ!?」


 次の瞬間、シェイマ=イェルリカヤがその姿を消した。


「っ! シア!」


 僕はすかさず振り返り、シアを見る。


 すると。


「ウフフ……厄介、ですね……」

「ふふ、そうですか? 遠慮なさらずに、もっと近づけばよろしかったのに」


 シアの背後を取ろうと現れたシェイマ=イェルリカヤだったが、それよりも先にシアが氷結系魔法により結界を展開していたことで、すぐに距離を取ったようだ。


 だが、それでも少し結界に触れてしまったらしく、黒の修道服の左腕の袖が凍っていた。

 少しでも離脱するのが遅れていたら、その左腕を失っていたことだろう。


「ならば仕方ありません。聖女・・の相手はそのような魔法が通用しない者に相手をさせることとして、私は小公爵様にお相手いただくとしましょう」

「「っ!?」」


 シェイマ=イェルリカヤがニタア、と口の端を吊り上げたかと思うと、僕達の周囲にいた教団の兵士達が次々と肉塊へと変わっていく。

 これは……あの“ティフォン”と同じ?


 ……いや、あのティフォンですら召喚は一人の命だけだったんだ。これだけの人数を生贄にするとなると、どれほどの魔獣を召喚するのか、およそ見当もつかない。


 ただし、作者であるこの僕を除いて。


「クリスウウウウウウッッッ!」

「っ!」


 僕はゲイブ達騎士団に次々と指揮を執っているクリスの名を、大声で叫ぶ。

 その声に反応し、クリスは強く頷いた。


「イーガン卿! それに騎士のみんな! 兵達に指示を出して、破城槌とバリスタをすぐに配備させて!」

「「「「「ハッ!」」」」」


 クリスの指示を受け、騎士達が馬に乗って一斉に駆け出す。

 そう……ここを決戦の舞台と捉えるなら、シェイマ=イェルリカヤがあの・・魔獣を準備していないわけがないと考えた僕は、それを倒すためにあらかじめ攻城用の兵器を用意しておいた。


 何せ、その魔獣を倒すということは、城を落とすのと同義だからね。


「シア、僕のところにおいで」

「はい……」


 手招きしてシアを抱き寄せると、唇を噛むシェイマ=イェルリカヤと対峙する。


「貴様が用意した要塞級・・・魔獣、“ベヘ=モス”は僕達の参謀であるクリスと、ブルックスバンク家が誇る一万の兵達で相手をしよう。そして貴様は、僕とシアの前にその命を散らせ」

「ウ、ウフフ……舐められたものですね……いくら聖女・・といえど、覚醒してからまだ日も浅いはず。それに、小公爵様に至ってはただの人・・・・ではないですか」

「…………………………」

「その程度の実力で、この魔法使いの最たる存在であるこの私を倒せるはずがないでしょうッッッ!」


 シェイマ=イェルリカヤがその顔を醜悪なものに変え、犬歯を剥き出しにして吠えた。


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