ヘカテイア教団との決戦

「さて、いよいよ教団の連中を叩きのめす時が来たわけだが……聞いている・・・・・んだろう・・・・? シェイマ=イェルリカヤ」


 僕はポーラ=モンゴメリを見据え、静かにそう告げる。


 すると。


『ウフフ……よくお分かりになりましたね?』


 ポーラ=モンゴメリはニタア、と口の端を吊り上げ、先程までとは違う声で尋ねた。


「はは、思ったとおり貴様はこの女を操っていたか。まあ、転移魔法に加えて洗脳魔法、操作魔法が貴様の得意魔法だからな。こうくると思っていたよ」

『……あら? あなたと私は、どこかでお会いしましたでしょうか?』


 僕がシェイマ=イェルリカヤの情報を知っていることに驚きを隠せないのか、眉根を寄せながら僕を睨む。


「まさか、貴様みたいな女と会う機会なんてあるわけがないだろう。それに、貴様がシアを狙いさえしなければ、貴様の醜いつらなんて一生見たくもない」

『ウフフ、言いますね』


 少し視線を落としながらクスクスとわらうシェイマ=イェルリカヤ。

 だが、その瞳は一切笑ってはいなかった。


「それで? 貴様が転移魔法でこの王都……いや、ブルックスバンク家に放ったヘカテイア教団の連中は、二万の兵で全て蹂躙じゅうりんさせてもらうとするんだが……どうする? このまま尻尾をまいて逃げるか?」


 シェイマ=イェルリカヤを見下ろしながら、僕は口の端を吊り上げる。

 はは、貴様が今回のことを好機とみて、かなりの戦力を投入していることは分かっているよ。


 僕が書いた原作でも、三人の王子が不在となった時に同じように王立学院に攻め入るといったシナリオがあったからな。


『……残念ながら、今さら撤退の二文字はないんですよ。ただでさえあの御方・・・・不興ふきょうを買ってしまった上、ここで聖女・・を排除でいなければ、教団の……私の命運すら尽きてしまうのですッッッ!』

「っ!?」


 そう告げて絶叫したかと思うと、シェイマ=イェルリカヤは身体を激しく揺さぶった。

 だが、それもすぐに終わり、女はそのまま意識を失った。どうやらポーラ=モンゴメリとの接続・・を絶ったようだ。


「ギル……」

「ギルバート……」

「シア、クリス、ここが正念場です。シェイマーイェルリカヤが……ヘカテイア教団が一歩も引かない以上、ここで全てを終わらせます!」


 不安そうに見つめる二人に、僕は拳を握りしめて告げた。

 そうだ……ラスボスのとなる者がまだ登場・・・・していない・・・・・今、ここでシェイマ=イェルリカヤを叩けば彼女の野望も潰え、ひょっとしたらラスボスを登場させずに済むかもしれない。


 もちろん、無理やり小説のストーリーに合わせようと、ひずみが生じる可能性も否定はできない。

 だけど……少しでもシアの幸せをより守れる方法があるのなら、僕は全力でそうするだけだ!


「ふふ……ギル。早くあの連中を打ち倒して、今度こそあなたとの幸せな日々を手に入れましょう……」

「うん! ヘカテイア教団なんて、ボク達で叩き潰してやるんだ!」


 僕の意気に応え、シアとクリスが小さく拳を握る。


「さあ、行きましょう! そして、勝利して僕達の未来を!」

「はい!」

「うん!」


 僕達は拳を突き上げて頷き合うと、ヘカテイア教団が現れた場所へと向かった。


 ◇


「ハハハ! どうした! そんなものか!」

「クフ……無様ですね」


 屋敷の外へ出てみると、ゲイブがウォーハンマーで何人もの教団の兵士達を蹴散らし、アンが罠で絡め取る。

 屋敷を囲む塀の外からも二万の兵の声と教団の連中のおののく声が混ざり合っていた。


 うん、既に僕達の出番はないんじゃなかろうか。


「私達も負けてはいられないぞ。ハリード」

「はい!」


 静かにそう告げるや否や、モーリスとハリードが飛び出して教団の連中の首をダガーで刈り取っていく。

 あはは……ここまでくると一方的だなあ……。


 とはいえ。


「それでも連中は、転移魔法で次々とこの屋敷へと送り込んできています。それらが全て尽きた時、僕達の勝利です」

「はい!」

「クリス! ブルックスバンク軍一万とゲイブ以下騎士団百名、お前に託したぞ!」

「任せて!」


 ドン、と胸を叩くクリスに兵の指揮を全て委ね、僕とシアはヘカテイア教団の掃討にかかる。


「ふふ……氷の世界へようこそ」

「「「「「っ!?」」」」」


 転移魔法陣から姿を現した教団の連中を、その比類ない氷結系魔法で全て氷漬けにする。

 僕はランスを振り回しながら、それらを全て粉々にした。


「あはは! さすがはシア! すごい魔法です!」

「ふふ……ギルに褒められ、こんなに嬉しいことはありません……」


 そう言って優雅にカーテシーをするシア。

 僕も、負けていられない!


 そう思い、教団の兵士の胴体に次々と風穴を開けていくと。


「クソッ! アレ・・を召喚しろ!」

「で、ですがっ! こんなところでアレ・・を放てば、連中だけでなく我々も……!」

「迷っている暇はない! このままではこちらが全滅するだけだぞ!」


 ヘカテイア教団の指揮官らしき者が、声を荒げながら兵に指示をする。

 その会話から察するに、先の王都襲撃と同様、戦術級魔獣を召喚するつもりなんだろう。


 そして、あの指揮官がその権限……つまり、召喚に必要な膨大な魔力・・・・・生贄・・をシェイマ=イェルリカヤから授けられたのなら。


「「っ!?」」

「させないよ」


 僕は【身体強化・極】を発動させ、一気に指揮官達に突撃し、その胴体をランスで貫いた。


「が……は……っ」

「残念だったね。これで、オマエ達は打つ手無しだ」


 討ち取った指揮官を無造作に放り捨て、僕はそう呟いた。


 その時。


「ウフフ……それはどうでしょうか?」

「っ!?」


 聞き覚えのある声が後ろから聞こえ、僕は思わず振り返る。


 そこには。


「初めまして、ギルバート=オブ=ブルックスバンク小公爵様」


 左胸に手を当て、恭しく一礼する黒の修道服をまとった女。


 ――シェイマ=イェルリカヤ、その人だった。


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