二つの計略
「そうですか……」
王立学院での一日の授業を終え、屋敷へと帰ってきたシアの報告を受けて、僕はそう呟いた。
「はい。ギルの考えたとおり、学院内……それも、私達と同じクラスにおりました。その後、ハリードに引き継いで現在は
「ええ……あの突然の乱心は、そうでないと説明がつきませんからね」
そう……僕は、ショーン王子とパスカル皇子の背中に洗脳のための魔法陣を描いた人物が、王立学院の内部にいると考えた。
まず、ショーン王子もパスカル王子も、僕やシア、クリスと違って寮生活を送っており、学院の外へ出ることがない。
また、朝や日中の授業中ではおかしなところ(普段からおかしいことは置いといて)は見受けられなかったのに、一日の授業を終えたタイミングで突然乱心した。
これらを考えれば、少なくとも王立学院内であの魔法陣が施されたということだ。
しかも、魔法陣を発動させるために、その術者が近くにいたとしても不思議じゃない。
いくらシェイマ=イェルリカヤがシアに次ぐ魔法使いだったとしても、あんなにタイミングよく洗脳魔法を発動させるなんてことは不可能だからね。
「ですが、
頬に手を当て、シアが眉根を寄せながら首を傾げる。
「たしかにシアの言うとおりです。ですが、二人の王子を洗脳で操ることができたのなら、
「……まさか」
そのことに気づいてこちらを見るシアに、僕は頷いてみせた。
「いずれにしても、ハリードからの報告を待ちましょう」
「はい」
僕とシアは頷き合うと、アンとリズが用意してくれたお茶を口に含んだ。
すると。
「ただいまー……」
疲れた表情のクリスが、この部屋へとやって来た。
「クリス、そちらはどうだった?」
「ああうん……全部上手くいったよ。それにしても、セシリー妃殿下が『ギルバートを許せない』と言って最後まで抵抗したから大変だったけど……」
「そ、そうか……」
ともあれ、王宮のほうの段取りも無事完了だな。
「さて……そうなると、連中はどう出てくるかな」
そう言って、僕は口の端を持ち上げる。
「アハハ、決まってるよ。さすがに連中はやり過ぎたんだから」
「ふふ、そうですね。ギルにこんなつらい思いをさせたあの方達には、是非とも苦しんでいただきませんと」
クリスとシアは、僕ですら底冷えしてしまうほどの表情を見せた。
◇
「やあ、こんばんは」
「…………………………」
その日の深夜、僕とシア、それにクリスは、一人の女性と対面していた。
といっても、その女性は縄で縛られ、口を塞がれてはいるけど。
「ハリード、会話できるようにしてやってくれ」
「はい!」
僕の指示を受け、ハリードは塞いでいる口の布を外した。
「ぷはっ! こ、こんな真似をして、一体どういうつもりですか!」
女性は布を外された途端、僕達に向かって吠えた。
「はは、どういうつもりなのかは、貴様が一番よく分かっているだろう?」
「っ!?」
最大限殺気を込めてそう言い放つと、女性は身体を小刻みに震わせ、恐怖に怯えた瞳でこちらを見た。
よく見ると……あーあ、漏らしてしまったか。
「ふふ……あなたがヘカテイア教団と繋がっていることは、確認いたしました。それと、王子達が乱心したあの日、あなたが二人にそれとなく
「アハハ。正確には
「っ!?」
シアとクリスが、彼女を見ながらニタア、と口の端を吊り上げた。
はは……こうなると、彼女が今は繋がっていなければ、恐怖でしかないだろうな。
「さて……“ポーラ=モンゴメリ”子爵令嬢、貴様がヘカテイア教団と繋がっていることは既に調べがついている。そして、僕が王宮で捕らえられているとの情報を連中に流したことも」
「…………………………」
「だが喜べ。貴様がその情報を流したことによって、これからやって来るだろう教団の連中は、全員一網打尽にしてやる。今夜を境に、ヘカテイア教団は破滅の道を歩むことになるんだ」
そう……今回の出来事を逆手に取り、僕達は一計……いや、二計を案じた。
まず、二人の王子に仕込んだ魔法陣は、近くに術者あるいはその代行者がいないと発動しないことを踏まえ、そのあぶり出しをすることにした。
そのため、シアがわざとクラリス王女と口論をして僕が王宮に囚われていると声高に知らしめ、クラス内にいる生徒達の反応を
シア曰く、この女は面白いほど素直に反応したとのことだ。
で、控えていたハリードに指示を出して尾行させ、ヘカテイア教団と接触して指示をしたのを僕の見届けた後、身柄を
次に、クリスにはフレデリカ第一王妃と共働して、ベネルクス皇国に証拠と一緒に書簡を送ってもらい、その後はヘカテイア教団を迎え撃つための段取りをしてもらった。
はは……まさか、この屋敷をブルックスバンクが誇る精兵一万と、王国直属軍一万が取り囲んでいるだなんて、夢にも思わないだろうな。
ただ。
「シア……あなたを
「ふふ、大丈夫ですよ。だって、あなたが私を守ってくださるのでしょう?」
「もちろんです。僕の全身全霊にかけて、愛するあなたをお守りします」
「はい……」
僕の言葉を聞き、シアがしな垂れかかってきた。
ヘカテイア教団の連中……教皇シェイマ=イェルリカヤは、僕が不在の間に本当の聖女で女神ディアナの代行者であるシアを狙おうとするだろうと考えたからこそ、この策が成り立ったんだ。
うん……全てが終わったら今回のことも含め、謝罪を込めて全力でシアを甘やかそう。
それはもう、毎日が笑顔でしかいられないほどに。
そして。
「坊ちゃま、現れたようです」
音もなく僕の背後に立ったモーリスが、そう耳打ちした。
「さて、いよいよ教団の連中を叩きのめす時が来たわけだが……
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