憤りとあぶり出し

■フェリシア=プレイステッド視点


「ど、どうしてギルが……ギルだけが、このような不当な処分を受けないといけないんですか!」


 二人の王子が乱心した事件から三日後、王室から正式におとがめなしとなった私は、王立学院に登校するなり他の生徒と談笑していたクラリス殿下に食ってかかった。


「お、落ち着いてください! 私のほうでも、あまりに酷い処分でしたのでお母様……フレデリカ妃殿下にお聞きしている最中です!」

「で、ですが! このままではギルが……ギルが……!」


 そう……王室からギルに下された処分は、ブルックスバンク家の領地及び財産の半分を召し上げの上、マージアングル王国における全兵権の剥奪。さらにはベネルクス帝国へ単身赴き、今回の事件について説明の上、当事者として謝罪をするというもの。


 そもそも、ギルこそが一番の被害者だというのに、こんな仕打ち……客観的に見れば明らかに理不尽です……っ!


「落ち着いてください、フェリシア様……私も、それにクリスも、小公爵様の無実を証明するために、お父様やお母様だけでなく、宰相閣下をはじめ多くの貴族にも働きかけをおこなっておりますから……」

「では、ギルはいつ許されるのですか? いつ、ギルは解放されるのですか……?」


 今も王宮にて拘束されているギルを想い、私は泣きそうになる思いをこらえ、クラリス殿下に問いただす。


 だけど。


「そ、それは……」


 クラリス殿下は言い淀み、視線を逸らしてしまった。

 つまり、彼女もギルを救うことが無理だということが分かっているのでしょう……。


「……もういい」

「……フェリシア様?」

「もういい! こうなったら、私一人でも王宮へ乗り込み、ギルを救い出してみせます! あのヘカテイア教団の襲撃から王都を救ったギルをこんなにもないがしろにする、そんな王室なんて、もはや必要ありません!」

「フェ……フェリシア様!? お待ちになってください!」


 怒りに身を任せて教室を出ようとする私を、クラリス殿下が身体を張って止めた。


「離してください!」

「ど、どうか落ち着いてください! 何か方法が……!」


 私とクラリス殿下が、教室の前でもみ合っていると。


「お姉様、それにクラリス殿下。一体どうなさったのですか……?」


 現れたのは、ソフィアだった。


「……あなたには関係ありません」


 私は思わず舌打ちし、吐き捨てるようにそう告げた。


 なのに。


「ソ、ソフィア! あなたもフェリシア様を止めてください! フェリシア様は、小公爵様を救おうと、王宮に乗り込むとおっしゃっているんです!」

「王宮に乗り込む!?」


 クラリス殿下が余計なことを口走り、ソフィアが目を見開いた。


「お姉様! それはどういうことなのですか!? そもそも、どうして小公爵様がそのようなことに!?」


 ソフィアが珍しく、狼狽ろうばいした姿を見せた。

 いつもは聖女らしく清楚に振る舞いながらも、そのエメラルドの瞳に侮蔑の色を湛えていた、あの・・ソフィアが。


「クラリス殿下! これはどういうことでしょうか! 事と次第によっては……!」


 事と次第によっては、何だと言うんでしょう。

 あれほど馬鹿にした女神教会に今さら縋ることもできないでしょうし、かといってプレイステッド家も有力侯爵家とはいえ、王室に歯向かえるような力なんてない。


 ソフィアはそこまで我を忘れるほど、どうしてギルを……?


「ソフィア、あなたも落ち着きなさい! とにかく、フェリシア様もソフィアも、このように私の邪魔をなさるのであれば、小公爵様と同様、二人も謹慎処分といたします! 頭を冷やしていなさい!」

「「クラリス殿下!」」


 私とソフィアは詰め寄りますが、怒ってしまった彼女は一切聞いてはくれませんでした。

 仕方なくクラリス殿下から離れ、私は自分の席に着く。


 ソフィアも同じように、肩を落としながら自分の席へと戻るのですが。


「……あの女……っ!」


 今まで見せたこともないような表情を浮かべ、親指の爪を噛みながら呟く。

 それほどまで、クラリス殿下に対して怒りを覚えたのでしょうか……。


 そんな妹が気にならないと言えば嘘になりますが、大事なのはそこではありまえん。

 私は教室の中をそれとなく見回す。


 すると。


「……ふふ、いましたね」


 クラスにいる子息令嬢のほぼ全員が困惑の表情を浮かべている中、一人だけ口の端を持ち上げている方を見て、私はただわらった。

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