王宮への出頭

「坊ちゃま……王宮より連絡があり、今すぐ出頭するようにとのことです」


 これからについて僕、シア、クリスの三人で打ち合わせをしていると、モーリスがやって来ていつもと変わらない様子でそう告げた。

 クリスが戻ってきてからまだ一時間ほどしか経っていないのに、早くも王宮からの呼び出しかあ……。


「モーリス、それは僕一人だけなのか?」

「いえ、フェリシア様とクリス様もです」

「ええ!? ボクもなの!?」


 まさか自分まで呼ばれるとは思っていなかったクリスが、驚きの声を上げた。


「多分、クリスの場合は王室の調査に手を貸していたからだろう。それに、クリスなら両方の立場から意見が言えるからな」

「う、うん……」


 僕はそう言ってみるが、クリスは浮かない顔をしている。


「どうした、クリス」

「うん……王室が僕まで呼んだということは、引き続き調査に協力を求めていることはもちろんだけど、それに加えてギルバートへの抑止力としても期待しているんだと思うんだ」

「ああ……そういうことか」


 クリスの言葉を聞いて納得し、僕は頷く。

 要は、ブルックスバンク家……僕と正面から事を構えたくない王室としては、クリスを緩衝材として間に立たせることで、軋轢あつれきを防ごうと考えたってことだ。


 つまり。


「……王室は、僕に不都合なことを告げるつもりなんだろうな」


 まあ、そういうことだろう。

 何より、僕に対して貸しを作る絶好の機会でもあるのだから。


「まあ、ここであれこれ考えていても仕方がない。とりあえず、王宮へ向かうとしよう」

「は、はい……」

「うん……」


 浮かない表情のシアとクリス。

 僕はそんな二人の肩を叩いて促すと、玄関に用意してある馬車へと乗り込む……んだけど。


「ギルバート」

「? どうした?」


 馬車に乗せようとクリスの手を取ったところで、彼女は真剣な表情で僕を見つめると。


「たとえ王室が君にとって理不尽なことをボクに言わせようとしても、絶対に受けたりなんかしないから……いつだってボクは、君の味方だから」


 そのとび色の瞳に、覚悟と決意を込めて。


「……あはは、分かってるよ」

「ふええええ!? ギ、ギルバート!?」


 そんなクリスの想いが嬉しくて、僕は思わず彼女の頭を少し乱暴に撫でた。

 本当に……僕の親友・・は……。


「さあ、行こう! なあに、王室が何か言ってきたところで、こちらにとって受け入れられないようなものなら突っぱねるだけだ!」

「あ……ふふ! はい!」

「うん! 王室だって、ギルバートには敵いっこないんだから!」


 クリスのおかげで落ち込んでいた雰囲気が吹き飛び、僕達は意気揚々と王宮を目指した。


 ◇


「……本当に、今回は予想外過ぎるわね……」

「あ、あはは……」


 王宮に到着すると、僕達はまずフレデリカ第一王妃とクラリス王女に面談した、んだけど……。


「それで、どうしてニコラス殿下とクラウディア殿下が?」

「うむ……さすがに私の弟が不始末を犯してしまったのなら、兄として放っておくわけにはいかないだろう」

「フフ、私はもちろん、婚約者のお手伝いです」


 おそらくクラウディア皇女は、ニコラス王子がポンコツぶりを発揮するところを期待して待っているんだろうなあ……うん、気づかないふりをしよう。


「は、話を戻しますが、王室としては今回の事態をどのようにお考えなのでしょうか……?」

「そうなのよね……とりあえず、ベネルクス皇国にはパスカル殿下がお亡くなりになられたことを含め、起こったことを正直に伝えるしかないわ……」

「ですよね……」


 僕とフレデリカ殿下は、揃って肩を落とした。


「だけど、今回のことで王室としては、小公爵に責を求めるようなことをするつもりはありませんよ。これだけ状況証拠や証言もあるのだし、余計な難癖をつけてあなたと事を構えるほど馬鹿ではないもの」

「そ、そうですか……」


 うん……さすがはフレデリカ第一王妃。政治的なバランス感覚は見事だな。


「だけど」

「……何かあるんですか?」


 フレデリカ第一王妃のもったいぶった一言を受け、僕はおずおずと尋ねる。


「……実は、この判断にセシリーは反対なの」

「セシリー妃殿下が、ですか……?」


 思わず聞き返すと、フレデリカ妃殿下がゆっくりと頷く。


「今回の事態にはショーン殿下も絡んでいるから、王妃としてではなく一人の母親として、納得ができないみたいで……」


 そう言うと、フレデリカ第一王妃が深い溜息を吐いた。

 確かに第一王妃の言うとおり、自分の大切な息子……ましてや王位継承を争う第二王子なのだから、今後のこと・・・・・を考えても受け入れることなんてできないだろう。


 だってもう、ショーン王子が王位継承権を得ることは、絶望的になったのだから。


「それで、ショーン殿下にはパスカル殿下と同様、身体の一部に魔法陣のようなものは……」

「あったわ。今、マリガン卿が宮廷魔法使い達と一緒に詳しく調べているところよ」

「やはり……」


 これで、何者かが二人を操って僕とシアを襲おうとしたことは間違いない。

 ……いや、ヘカテイア教団の仕業に決まっているんだが。


 さて……それなら、コッチもやられっぱなしというのは性に合わない。

 なら、一つ仕掛けてみるとしようか。


「フレデリカ妃殿下。僕に一つ、提案があるのですが……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る