蟄居

「…………………………」

「…………………………」


 あれから二人の王子を警備兵に引き渡した後、僕とシアは案の定、王室から蟄居ちっきょを命ぜられた。

 あの二人の惨状を考えれば、そのような命が下るのは当然だ。


 本当なら新婚二日目の僕とシアは甘いひと時を過ごしているはずだったのに、アイツ等のせいでこんな重い雰囲気になってしまっている。


 なお、クリスは僕達と一緒に屋敷には戻らず、今も王立学院での現場検証に立ち会っている。

 というのも、クラリス王女が今回の出来事についての陣頭指揮を執ることになったので、クリスはその補佐として彼女に頼まれてしまったのだ。


 特に、今回はいくら相手が本国で厄介者扱いされていた者で、なおかつ正当防衛(過剰防衛ともいう)とはいえ、他国の皇族を王国貴族が殺害してしまったんだ。

 現場に居合わせてしまったクラリス王女の心中、察するに余りある。


「シア……ここにいても仕方ありませんので、あなたは部屋でお休みになられては……?」

「いいえ、私はギルのおそばにおります」


 おずおずとそう声をかけるも、シアは僕の傍から離れるつもりはないらしい。

 そのことが嬉しくてシアに抱きつきたくなるが、さすがにこの空気の中でそんなことをしてしまうわけにもいかない。


 とにかく……早くクリスが帰ってくることを願うばかりだ。


 そして、屋敷で待つこと六時間。


「ハア……疲れたよー……」

「「クリス!」」


 疲れ切った表情で肩を落としながら帰って来たクリスに、僕達は駆け寄る。


「それで……あの後どうなった……?」

「ああ、うん……ゆっくり説明するよ……」


 僕達は応接室へと移動し、クリスからその後について説明を受ける。


 あの後、法務大臣と王室の調査機関がやって来て、関係者などへの事情聴取と現場検証を行った。

 ショーン王子については、その後もずっと僕への怨嗟えんさの言葉を叫び続けていたらしく、意思疎通を取ることは不可能と判断されて王宮へと連れて行かれた。


 パスカル皇子については、やはり既に事切れており、死因などについて引き続き調査をするらしい。

 といっても、死因なんて僕に思いきり殴られ続けたことによるものだから、今さらなんだけど。


 だが。


「……ギルバートが一番分かっていると思うけど、パスカル皇子は明らかに死んでいる状態であるはずなのに、彼は君に対して反撃を試みた」

「ああ……」

「それで、王国の魔法使いの第一人者であるマリガン先生が、念のためにパスカル皇子の遺体を調べたところ、その表皮……背中の部分に、魔力によって魔法陣が描かれていた痕跡があったそうだよ」

「「っ!?」」


 クリスの小さな口から放たれた衝撃の事実に、僕とシアは思わず息を呑んだ。


「マリガン先生曰く、残された痕跡から分かったのは、どうやら洗脳魔法……ううん、それよりもっとたちが悪いものだろうって……」

「そ、そうか……」


 クリスの説明を踏まえるとこんな真似をできるのはヘカテイア教団……いや、一人しかいない。

 教皇、シェイマ=イェルリカヤの仕業で間違いないだろう。


「ク、クリス、ではショーン殿下はどうなのですか? あの方も、パスカル皇子同様おかしくなってしまいましたが……」

「うん……実は、マリガン先生がパスカル皇子の遺体を確認する前に王宮に帰ってしまったから、法務大臣と調査機関、それにマリガン先生がそちらに向かっているところだよ」


 そう言うと、クリスが肩をすくめた。

 なるほど……それで、クリスはようやく解放されたというわけか。


「クリス……僕が逆上してしまったばかりに、迷惑をかけてすまない」

「アハハ、君は何も悪くないじゃないか。むしろ、ギルバートとフェリシアは完全に被害者だよね」

「そうです。ギルバートは私を守ろうと、身を挺してくださっただけです」


 僕が深々と頭を下げると、クリスとシアがそう言って慰めてくれた。

 だが、これは明らかに僕の失態だ。


 まさかラスボスとの戦いを前にして、原作者である僕自身がヒーローの一人を退場させるなんて……。


「それよりも、問題なのはベネルクス皇国にどう説明するか、だよね……」

「ああ……いくらこちらが事実を説明したところで、向こうはそうは取らないだろう」


 ベネルクス皇国からすれば、厄介者とはいえ第三皇子。こんな事態になってしまっては、皇国が侮辱されたと捉えるに決まっている。


 マージアングル王国が亡き者にしたと難癖をつけるか、あるいはマージアングル王国の警備体制の甘さを責めてくるだろうな……。


「せっかく王室に貸しを作っておいたのに、これじゃ貸し借りなし……いや、絶対に恩を売ってくるだろうから、むしろ今後、足元を見られそうだ……」

「ま、まさかあ……さすがにこれまでのギルバートの貢献とブルックスバンク家の影響力を考えれば、恩は売るけどやり過ぎたりはしないと思うけど……多分」


 僕とクリスは、顔を見合わせながら溜息を吐いた。

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