狼狽える王子達
「フェ、フェリシア……具合が悪そうだけど、大丈夫なの?」
馬車に乗って王立学院へと向かう中、クリスが心配そうに尋ねる。
「え、ええ、大丈夫です……あ、痛た……」
気丈に返すシアだが、馬車が少し揺れると彼女は痛みで腰を押さえた。
な、何というかその……申し訳ありません。
「む、無理しちゃ駄目だよ!?」
「はい、ありがとうございます……」
うう、いたたまれないなあ……。
「と、ところでクリス、昨日渡した魔法陣のお守りはちゃんと持っているか?」
「もちろんだよ。君がくれたものだもん」
話題を変えるためにそう話しかけると、クリスははにかみながら胸元を押さえた。
どうやらそこにお守りがあるようだけど……うう、これはこれで罪悪感が……。
「だけど、王都での襲撃の時に僕達にあれだけ痛めつけられた上に、ブリューセン帝国でも一掃されてヘカテイア教団は基盤を失ったんだよ? そんなすぐに手を出してきたりするかな……」
口元を押さえながら、クリスがそう尋ねる。
確かに、ヘカテイア教団はその力を確実に落としただろうし、すぐに動けるような体制じゃないだろう。
だが。
「クリス……ヘカテイア教団の本部があるバルディリア王国は無傷なんだ。なら、あの国が総力を挙げて何かをしでかすことも視野に入れないといけない」
「うん、それはボクも理解しているよ。それでも、他国での力を失ったんだから、とても今すぐ手出しをしたりはしないと思うよ」
クリスの言うことにも一理ある。
だが、ヘカテイア教団の教皇、シェイマ=イェルリカヤは前世の僕が書いた小説上では、シアに次ぐ魔法使いであることは間違いない。
何より。
「あの襲撃でも、教団は明確に僕達を標的と定めていた。国家規模の軍事行動はさすがに無理とはいえ、既に面が割れてしまっている僕達が狙われる危険性は、どちらかといえば高まっているんだぞ」
「アハハ。だからこそギルバートは、その対策を講じてるんだよね?」
「ま、そうだな」
クスクスと笑うクリスに、僕は肩を竦めて苦笑した。
「ふふ……大丈夫です。あんな連中の好きには、絶対にさせませんから」
「はい、もちろんです」
自信に満ちた表情で告げるシアに、僕もクリスも頷く。
だけど……あはは、本当にシアは強くなったな……。
それこそ僕の小説で活躍する、あの主人公でヒロインのフェリシア=プレイステッドよりもはるかに強く。
そんな
◇
「うふふ、おはようございます」
教室に入るなり、あの女……ソフィアがわざわざ僕の前へやって来てカーテシーをした。
あのねっとりと絡みつくエメラルドの瞳は相変わらずだが、僕とシアが結婚したことや一つに結ばれたこともあってか、一週間前や昨日のように感情が揺さぶられるようなことはなかった。
……ひょっとしたら、結婚には呪いや洗脳を打ち破る力のようなものがあるのかもしれない。
だって……僕と本当の聖女であるシアとの結婚は、女神ディアナによって祝福されたものなのだから。
「ふふ、おはようございます。ソフィア」
シアもまた、僕と決して切れることのない永遠の契りを手に入れたことで、昨日まであったソフィアへの不安は払しょくされ、こんなにも自信と幸せに満ちあふれた表情を浮かべている。
性急だったことは確かだけど、それでも、シアと結婚してよかった……。
「それで?
「あら、お姉様……どうして私が小公爵様に御用があるとお思いなのですか?」
「ふふ、簡単よ。だってあなた、物欲しそうな顔でギルを見つめていますもの」
にこやかに微笑みながら、互いにけん制し合う姉妹。
僕達の
そんな中。
「ハハ……小公爵殿の
「オイコラ待て! 何を勝手に自分のモンみたいに言ってんだよ! ソフィアはこの俺のモンだ!」
空気を一切読まずにソフィアの隣へとやって来たショーン王子とパスカル皇子。
ある意味、この二人のメンタルは鋼以上だ。僕には到底真似できない。
「ソフィア、お二人がそうおっしゃっていますけど?」
「……本当に、困ったものですね」
シアに愉快そうに尋ねられ、ソフィアはこめかみを押さえながらかぶりを振った。
「ショーン殿下、そしてパスカル殿下……この際ですのではっきりと申し上げます」
「ソ、ソフィア……?」
「な、なんだ……?」
冷ややかな視線を送られ、たじろぐ二人の王子。
そして。
「私、ソフィア=プレイステッドはお二人のことは一切……それこそ、一かけらほどの情もございません。特にショーン殿下、セシリー妃殿下にもお伝えいただきたいのですが、私を手に入れて女神教会の支持を取り付けようとしても、徒労に終わるかと思います」
「っ!? ま、待ってくれ! 僕は……!」
「ソフィア!? それはあんまりだろ!?」
ソフィアから抑揚のない声でキッパリと
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