一つになった夜、幸せな朝

 ――コン、コン。


「っ! は、はい!」


 シアと僕の部屋を繋ぐ扉がノックされ、僕は上ずった声で返事をすると、慌ててベッドを降りて扉を開ける。


 そこには。


「ギル……」


 少し大胆なナイトドレスを身にまとい、その白い肌を赤く染めたシアがいた。

 普段の清楚で凛とした様子とは違うシアの豊麗なその姿に、僕はただ目を奪われ、思わず唾を飲み込んだ。


「そ、その……少し一緒にいてもよろしいですか……?」

「も、もちろんです。さあ、どうぞこちらへ」


 上目遣いでおずおずと尋ねるシア。

 そんな彼女の手を取り、僕は心臓を激しく高鳴らせながら部屋へと招き入れた。


「い、色々なことがありましたので、今日は早く寝ようとベッドに入ったのですが……目をつむると、どうしてもあの・・幸福の瞬間が脳裏に浮かび上がってしまい……」


 椅子に腰かけながら、恥ずかしそうに……だけど、すごく幸せそうな表情でたどたどしく話すシア。

 その口元は、今も結婚の瞬間を思い出したのか、最高に緩んでいた。


「あはは……実は僕も、あなたとの結婚を思い出しながら、喜びに震えておりました」

「あ……ギルもなんですね……!」

「もちろんです、誰よりもあなたと一緒になりたいと思っているのは、この僕なのですから」


 務めて平静を装いながら、僕は胸に手を当ててニコリ、と微笑む。

 でも、僕の心の中はシアのことで頭が一杯だった。


 だって……今も、目の前の美しく輝くシアはナイトドレスからその細く白い首と鎖骨、それにその豊かな胸の谷間を覗かせ、しかも、お風呂上がりだからか微かに薔薇の香りが僕の鼻をくすぐっているのだから。


 すると。


「え……? あ……シ、シア……?」

「す、すいません……どうしても、あなたの温もりを感じたくて……」


 椅子から立ち上がったシアがそばへ来ると、僕の首にそのか細い腕を回した。


 僕は……もう……っ。


「あ……ちゅ、ちゅく……っ」


 我慢できなくなった僕は、いつもよりも少し強引にシアの唇を奪う。

 彼女も、僕の唇を……舌を受け入れるように、情熱的に絡めてきた。


「ちゅる……ぷは……シアが……シアがいけないんですからね……?」

「はい……ですが、今夜ばかりは愛しいあなたを求めてしまう、はしたない私をどうかお許しください……」


 潤んだサファイアの瞳が、どうしようもなく僕の心を誘う。

 もう、僕は自分を抑えることができなかった。


「シア……シア……ッ!」

「ん、んあ……ギル……ギル……きて……っ!」


 カーテンの隙間から月の明かりが差し込む中、僕とシアは肌を重ね合わせ、まるで溶けて混ざり合うように一つになった。


 ◇


「シア……」


 空が白んで少しずつ世界が明るさを取り戻していく中、僕は腕に頭を乗せるシアの綺麗なプラチナブロンドの髪を優しく撫でる。


「ふふ……ギル、眠くありませんか……?」


 するとシアが、蕩けるような笑顔を見せながら尋ねた。


「はい。まだあなたとの逢瀬の興奮から醒めず、むしろ目が冴えております」

「ふあ……も、もう……恥ずかしいです……」

「どうしてですか? あなたはとても可愛らしくて、情熱的で……」

「こ、これ以上はおやめください……っ」


 恥ずかしがるシアを苛めたくなり、少し揶揄からかうようにそう告げると、彼女は僕に覆いかぶさりながら手で口を押えた。


「嫌です。僕はもっともっとあなたを求めたくて仕方ありません。あれだけでは全然足りませんよ」


 シアの細い腰に手を回し、彼女を強く引き寄せると。


「あ……ちゅ、ちゅ……ちゅる……ちゅぷ……は……はう……っ」


 その可愛らしい口を奪い、絹のような肌を火照らせる彼女を愛撫する。


 ――コン、コン。


「「っ!?」」


 突然、部屋をノックされ、僕とシアは息を呑んで扉を凝視した。


「だ、誰だ!」

「坊ちゃま、おはようございます」


 どうやらモーリスのようだが、それにしてもいつもより早くないか……って。


「も、もうこんな時間だったのですね……」


 時計の針は朝の六時半を差しており、シアが呟く。


「それで、朝食の用意ができておりますがいかがなさいますか?」

「す、すぐに支度して食堂へ向かう!」

「かしこまりました」


 扉の向こう側にいるモーリスがそう言うと、すぐに気配が消えた。


「そ、そろそろ起きましょうか……」

「そ、そうですね……」


 僕達はいそいそとベッドから出ると、僕はいつもの服に、シアはナイトドレスを羽織ろうとして。


「あ……ギル……」

「駄目ですね……あなたの美しい姿を見てしまうと、どうしても衝動が抑えられなくなってしまいます……」

「ふあ……その……つ、続きはまた今夜……ね……?」

「は、はい!」


 うつむきながらそう告げるシア。

 その言葉に、僕はまた心をときめかせた。


 シアは自分の部屋へと戻り、僕も着替えを済ませて部屋を出る……っ!?


「モ、モーリス!?」


 そこには、白髭を僅かに持ち上げるモーリスがいた。

 こ、ここから離れたんじゃなかったのか!?


 見れば、シアの部屋の前でノックするアンも、含みのある笑みを浮かべながらこちらを見てるし!?


「……次の・・小公爵様にお仕えするのが楽しみです」

「~~~~~~~~~~っ!」


 そんな言葉をモーリスに告げられ、僕は火照る顔を両手で覆った。


※※※※※


投稿開始してます!


「弟の策略により命を落とした不器用な冷害王子は、最後まで祈りを捧げてくれた、婚約破棄した不器用な侯爵令嬢のために二度目の人生で奮闘した結果、賢王になりました」


https://kakuyomu.jp/works/16817139556510359926


メッチャ面白いので、ぜひぜひ、お読みくださいませ!

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