永遠の誓い

「私は……フェリシア=プレイステッドは、愛する御方……ギルバート=オブ=ブルックスバンクと結婚いたします」


 シアは……世界一愛する女性ひとは、笑顔でお辞儀をした。


「あ……ああ……!」


 その笑顔に、欲しかった言葉に、僕は震えた。

 僕は……僕は……っ!


「シア!」

「ギル!」


 僕は、シアを強く抱きしめた。


 僕の想いを受け入れてくれた、嬉しさで。

 僕を信じてくれた、その嬉しさで。


「シア……これで僕達の結婚を妨げるものは、何一つありません。だから……だから……」

「はい……ギル、結婚いたしましょう。そして、永遠の愛を誓い合いましょう……」


 嬉しさのあまり僕は涙をこぼすと、シアが微笑みながらハンカチで優しく拭き取ってくれた。

 だけど、彼女のサファイアの瞳もまた、涙であふれていて……。


「コホン」


 ……そうだった。ここにはもう一人いるのを忘れていた。


「そ、その、枢機卿……」

「この女神教会は、厳粛かつ神聖なる場所。今日結婚したいからといって、すぐにそれを受け入れられるような場所ではありません」

「「っ!?」」


 僕とシアを交互に見ながら、尊大な態度でそう言い放つ枢機卿。

 その姿に思うところはあるが、僕が無理を言っていることも事実。なので、大人しく黙って聞いていると。


「……ですが、二人の素晴らしい男女を祝福したいと思うのも、これもまた誠です。よって、特例ではございますが、直ちに小公爵様とフェリシア様の結婚式を執り行うことといたしましょう」

「っ! す、枢機卿!」

「ありがとうございます!」


 僕は嬉しさのあまり、枢機卿の手を取って何度も頭を下げる。

 あはは! 僕からお布施を巻き上げるだけの、ただの守銭奴じゃなかったんだな!


「ですが、このような型破りなことは、今回限りですからな?」

「もちろんです! このギルバート=オブ=ブルックスバンク、枢機卿と女神教会には感謝しかありません!」


 うん、無事にシアとの結婚を終えたら、シアの呪いを解いた時の倍はお布施するとしよう。


「では、衣装はどうなさいますか? お二人共、王立学院の制服を身にまとっていらっしゃいますが……」

「あ……」


 そうだった。シアの不安を払拭するために、結婚することしか頭になくて、それ以外のことを何一つ考えていなかった……。


「枢機卿……私達はこのままで構いません。ただ、女神ディアナに私達の永遠の愛を誓わせていただければ、それで……」

「かしこまりました」


 シアが胸に手を当てながらそう言うと、枢機卿は恭しく一礼した。


「シ、シア、よろしいのですか……? 僕が無理やりに結婚しようとしたせいで、あなたが……」

「ふふ、もちろんです。今申し上げたとおり、私にとって大切なのは、あなたと永遠の愛を誓うことですから……」

「シア……」


 蕩けるような笑顔でそう告げるシアに、僕は感動で胸が張り裂けそうになる。

 だけど……うん、ラスボスを倒したあかつきには、改めて結婚祝賀パーティーを盛大に開くとしよう。


 もちろん、世界一素敵な純白のドレスを用意して。


 僕とシアは枢機卿に案内され、大聖堂にある女神ナディア像の前へとやって来た。


 そして。


「汝ギルバート=オブ=ブルックスバンクは、この女フェリシア=プレイステッドを妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約の元に誓いますか?」

「誓います」


 枢機卿が読み上げる詔に、隣のシアを一目見てから即答する。


「汝フェリシア=プレイステッドは、この男ギルバート=オブ=ブルックスバンクを夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約の元に誓いますか?」

「誓います」


 シアもまた、僕を見て微笑んだ後、力強く頷きながらそう答えた。


「我らが崇高なる愛と豊穣の女神ディアナよ、今日結婚を交わした二人の上に、満ち溢れる祝福を注いでください。二人が愛に生き、健全な家庭を作りますように。喜びにつけ悲しみにつけ信頼と感謝を忘れず、困難にあっては慰めを見出すことができますように……」


 ああ……僕はとうとう、シアと永遠の愛を誓ったんだ。

 小説の主人公でヒロインで悪役令嬢で、二度目・・・の人生で僕をざまぁするはずだった、世界一愛する女性ひとと……。


 枢機卿の祝福の言葉を聞きながら、感極まって涙ぐみそうになる。


 その時。


「あ……」


 手を握り、同じくサファイアの瞳に涙をたたえながら、僕を見つめるシア。


 そして。


「ん……ちゅ……」


 僕はシアをそっと抱き寄せ、その柔らかく紅い唇に、そっと誓いの口づけをした。

 名残惜しい思いを押さえ、僕はシアの唇を解放すると。


「ギル……ギル……ッ!」


 シアは僕の胸に顔を埋め、涙を零しながら何度も頬ずりをする。

 僕も、そんな彼女を強く抱きしめた。


「シア……あなたを永遠に愛し続けます」

「ギル……私もあなたを、永遠に愛し続けます」


 女神ディアナが見守る中、僕とシアは、永遠の愛を誓い合い、そして……本当の夫婦となった。

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