女神、降臨② ※ソフィア視点

■ソフィア=プレイステッド視点


「ソフィア様……が欲しくありませんか?」


 そう言うと、黒装束の女は口の端を吊り上げた。


「…………………………」


 意図が分からず、私はジッと黒装束の女を見つめる。


「こちらは『降臨の宝珠』と呼ばれるものなのですが、これを飲み込んだ者は女神の力・・・・を得ることができるのです」


 女神の力・・・・

 紅い珠を手に取りながらうそぶく女の言葉に、私は声が出ないながらも笑ってしまった。


 女神も何も、私は女神ディアナの使いである聖女なのよ?

 そんなものが、この世界にあってたまるものですか。


「おや、お疑いのようですね。百聞は一見にしかず。試しに口に含んでみては?」


 そう言うと、黒装束の女は私の顔をつかみ、無理やり口をこじ開けた。


「……っ! ……っ!」


 必死に抵抗するけど、声が出ないばかりかあり得ないような女の怪力の前に、私は口を開いてしまった。


 その瞬間。


「っ!?」


 私は、得体のしれないものを口に入れられ、飲み込んでしまった。


 すると。


「ウ、ウグウウウウウウウウウウウウッッッ!?」


 突然、お腹が強烈に熱くなった。

 く、苦しい!

 苦しい! 苦しい! 苦しい!


 口の中に指を突っ込み、無理やり吐こうとするけれど、紅い珠は出てこない。

 とうとう私の身体は耐え切れなくなり、逆に大量の血が喉の奥から溢れ出てきた。


「ふう……どうやら失敗・・みたいですね」


 急に興味を失ったのか、黒装束の女はそんなことを呟きながら私を無造作に床に放り投げた。

 この女……許せない。

 絶対に許せない……っ!


 私は黒装束の女に対し、今までにない憎悪を向けた。


 その時。


 ――ドクン。


 私の胸が、激しく打った。


「こ……れ…………は……?」


 どういうわけか、焼けるような胸の熱さと苦しみが一瞬で消え、つい先程まで一切出なかった声を出すことができた。


 そして……私の頭の中で、何者かがささやく。


 ――この世の全てを、浄化・・せよ、と。


 それと同時に、あの得体のしれない紅い珠が何なのか、私は理解した。

 私は……女神・・になったのね……。


「ねえ」

「っ!? ま、まさか……!」


 私の雰囲気が変わったのを見て、黒装束の女は色めき立つ。

 うふふ……どうやらこの女は、私を生け贄にでもするつもりだったのね。


 でも、お生憎様。


「っ!? ウ、ウグ……ッ!?」


 私は赤い珠の力……女神の力・・・・を使い、無造作に黒装束の女の首を握る・・仕草をする。

 触れてもいないのに、女は宙に浮き、苦悶の表情を浮かべた。


「うふふ、私にあんな真似をしたんですもの。無惨に殺して差し上げるわ」


 そう言うと、私はニタア、と口の端を吊り上げる。


 だけど。


「っ!?」


 黒装束の女は、私の目の前から消え去った・・・・・


「馬鹿ね……女神・・の私に、分からないわけないじゃない」


 そう……私には、あの女がどこへ消えたのか、手に取るように分かる。


 なので。


「ヒッ!?」

「ねえ? どうして逃げるのかしら?」


 軽い悲鳴を上げる黒装束の女に、私はおどけてみせた。


「うふふ……とりあえず、死にたくなければあなたの素性と、どうして私を・・選んだのか・・・・・、教えてくれるかしら?」

「あ……は、はい!」


 黒装束の女……シェイマは、私に全てを語った。

 シェイマはヘカテイア教団の教皇であること。

 私を生け贄にし、成功したら自分は私からその力を取り込んで女神になるつもりだったこと。

 そして、女神の教えに従い、この世界を浄化・・するつもりだったこと。


「うふふ、おめでたいわね。あなた・・・ごときが・・・・、女神になんてなれるわけがないじゃない」

「あ……」

「嘘じゃないわよ? だって、女神・・の私には分かるもの」


 そう……この女に、女神・・になる資質は一切ない。

 なれるのは、精々道化くらいのものね。


「まあ、別にいいでしょう? だって、あなたが崇拝する女神・・は、ここにいるんですもの」


 そう言ってクスクス、とわらうと、シェイマは顔を引きつらせながら、媚びへつらうように何度も頷いた。


 今となっては、あの傷女・・さえもどうでもよくなって……いえ、それは嘘ね。

 女神・・になったことで、これまで以上に傷女・・への憎悪が渦巻く。


 ――あの女・・・の生まれ変わりを、壊してしまえと。


「うふふ……あははははははははは! 楽しみに待っててね! お姉様!」


 バルディリア王国にあるヘカテイア教団本部の礼拝堂から、傷女・・のいる方角へと視線を向けながら、私は高らかにわらった。

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