女神、降臨① ※ソフィア視点

■ソフィア=プレイステッド視点


「もう! どうして私がこんな思いをしないといけないのよ!」


 王都での事件が起こってから一週間。

 私は自分の部屋に飾ってあった壺や絵画、家具などを手当たり次第投げ捨て、破り、倒していた。


「そもそも、私は聖女・・なのよ! なのにあの連中ときたら、私を馬鹿にするような視線を向けて!」


 あの事件の時、私は聖女として大勢の怪我人が横たわる広場へと派遣された。

 いちいち平民の相手なんてしたくない私は一旦断ったけど、聖女である以上それはできないと女神教会に半ば強制的に駆り出され、仕方なく治療にあたった、んだけど。


「……どうしてあんなところに、傷女・・がいたのよ」


 そう……広場には、既に姉のフェリシアがいた。

 しかも、必要な魔力量が多すぎて私でさえ一日に数回しか使えない上級回復魔法を、次から次へと怪我人にかけて。


 私も上級回復魔法で治療にあたったけど、どういうわけか同じ魔法のはずなのに傷女・・のほうが回復量は多い上に治療も早く、圧倒的に差をつけられてしまった。


 だから、あの場にいた全ての者が、しかも女神教会の神官達でさえ聖女である私ではなく、よりによって傷女・・を、涙を流しながら讃えていた。


 既に王立学院では私よりも傷女・・のほうが上の評価を受けていたけど、これで王都……いえ、マージアングル王国内でも評価は変わってしまった。


 おまけに女神教会は、傷女・・に聖女認定を打診する始末。

 もはや完全に立場が逆転してしまった私は、こうやって物に八つ当たりすることしかできない。


「……あんな傷だらけの醜い女のくせに……っ!」


 どこで、こんなことになってしまったんだろう。

 そう考えるも、答えははっきりと分かっている。


 全てはあの小公爵、ギルバート=オブ=ブルックスバンクと婚約をしてからだ。

 その時から、完全に私と傷女・・の立場が入れ替わってしまったのよ。


「ああ……本当に気に入らない……!」


 傷女・・も変態の小公爵も、全てが気に入らない。

 使えない二人の王子も、ベネルクス皇国から来た、口だけのパスカル皇子もそう。


 私の周りには、碌な連中がいない。


「ハア……だけど、これからどうしようかしら……」


 既に私の評判は地に落ちて、このままだと女神教会から早晩見放されるのは確実。

 そうなってしまったら、私は傷女・・から報復を受けるかもしれない。


「ま、まさかね……」


 そんな考えを振り払うように、私は乾いた笑みを浮かべながらかぶりを振る。

 でも、傷女・・はともかく容赦のない小公爵が、女神教会という後ろ盾を失ってしまった私を放っておくはずがない。


 八方塞がりの状況に、私は頭を抱えた。


 その時。


 ――コン、コン。


「ソ、ソフィアお嬢様……その、お客様がお見えになられております」

「お客様? 私に?」


 怯えた表情で部屋にやって来たメイドを睨みながら、私は首を傾げる。

 私にお客様だなんて、一体誰かしら……。


「今は忙しいと言って追い返して」

「で、ですが……」

「早く! 聞こえないの!」

「か、かしこまりました!」


 私が怒鳴るなり、メイドは逃げるように部屋を出て行った。

 全く……誰一人として使えないんだから……。


 私は扉を眺めながら、溜息を吐く……「おやおや、つれないですね」……っ!?


 突然背後から聞こえた声に、私は勢いよく振り返ると、そこにはスカーフを被った黒装束を着た褐色肌の若い女が立っていた。

 この女、どうやって部屋に入ってきたの!?


「ウフフ、初めまして。私は“シェイマ=イェルリカヤ”と申します」

「シェイマ……って、何者よ!? どうやってここに入ったの!?」


 私は声を荒げながら尋ねつつ、そばにある呼び鈴を手に取って人を呼ぼうとした。

 なのに、いつの間にか呼び鈴は私の手元から消えてしまった。


「…………………………っ!?」


 どういうこと!? 声まで出せなくなってる!?


「申し訳ありませんが、少々静かにしていただけませんか?」

「っ!?」


 ニタア、と口の端を吊り上げる黒装束の女。

 全てはこの女の仕業のようね……。


 このままでは危害を加えられると感じた私は、頷いて素直に言うことを聞くことにした。


「ウフフ、ありがとうございます。実は私、あなたに素晴らしい提案をお持ちしたんです」


 提案? この女は何を言っているの?


「ソフィア様……が欲しくありませんか?」


 そう言うと、黒装束の女は口の端を吊り上げた。

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