愛する女性の、最高の笑顔
「もう……無茶しないでよね……」
胸を撫で下ろしながら苦笑いするクリスと、両手を竜の
「クリス! マリガン卿!」
ティフォンが先程の一撃で怯んだ隙にランスを引き抜いた僕は一気にその場から飛び退き、クリス達の元へと駆け寄った。
「ど、どうしてここに?」
「実は僕達も、屋敷を襲撃した教団の者からあの魔獣のことについて聞き出したんだ。それで、急いでここに駆けつけたんだ」
「そうだったのか……」
はにかみながら話すクリスに、僕は納得しながら頷いた……って!?
「シ、シア!?」
「もう! もう! 無茶ばかりなさって!」
勢いよく飛び込んできたシアが、泣いて怒りながら僕の胸をポカポカと叩く。
「す、すいません……僕も、まさかティフォンがあのようにして防ぐとは思ってもいなくて……」
「グス……お願いですから、ほんの少しでも危険な真似をするのはお止めください。あなたに何かあったら、私……私……っ」
「シア……」
涙でくしゃくしゃになった顔で訴えるシアを、僕は謝罪と誓いの意味も込めて抱きしめた。
もう……彼女を悲しませるようなことはしない。
「ホラホラ! ギルも無事だったんだから、もういいでしょ!」
「そうです! 二人共離れてください!」
「「あ……」」
頬を膨らませるクリスとマリガン卿に、僕とシアは半ば無理やりに離されてしまった。
特にマリガン卿は、完全に僕を睨みつけているし……って。
「そ、そうだ! それどころじゃない! ティフォンが完全に召喚されてしまう前に仕留めないと!」
左腕を失って今も苦悶と憎悪の表情を浮かべるティフォンを見やり、僕は叫ぶ。
「もちろんそのとおりだよ。そもそも、ここに来たのはボクとマリガン卿だけじゃないよ」
「え?」
クリスの言葉に思わず呆けてしまうと。
「ハリード! 目を狙うのだ!」
「はい!」
突如現れたモーリスとハリードが、ティフォンの目を狙ってナイフを投げた。
強靭な皮膚とは違い、柔らかい目にナイフが綺麗に刺さり、ティフォンの頭が地面にのたうつ。
「モーリス! ハリード!」
「フフ、私もいるわよ!」
さらには、サンプソン辺境伯も現れ、ティフォンの
「なによ、図体がでかいだけで大したことないわね」
サンプソン辺境伯はそう言って肩を
あはは……本当に、頼もしいな。
「フェリシア様、これは私特製の魔力回復薬です。どうぞお飲みください」
「あ、ありがとう……ございます……」
マリガン卿から怪しげな色の液体の入った瓶を受け取り、シアが微妙な表情を浮かべた。
だけど、期待に満ちた瞳で見つめるマリガン卿の圧力に屈したシアは、意を決して瓶の中身を飲み込んだ。
「あ……これ……」
「うふふ、どうですか?」
「すごいです! これなら、私もまだ魔法が放てます!」
誇らしげに胸を張るマリガン卿の手を取り、シアは満面の笑みを浮かべた。
その姿を見て、僕もホッと胸を撫で下ろす。
だが。
「っ!? まずい! 今度は右腕も出してきたぞ!」
黒の魔法陣から右腕が出現し、ティフォンは胸から上が露わになった。
ここまで来れば、ティフォンの全身が姿を現すのは時間の問題だ。
「みんな! 一気にケリをつけるぞ! 絶対に、奴を完全に召喚させるな!」
「「「「「おおー!」」」」」
僕の言葉にみんなが気勢を上げ、一斉に攻撃を仕掛ける。
ティフォンも右腕で応戦するため、思うように身体を魔法陣の中から引き上げることができない。
「さっきのお返しだッッッ!」
「ッ!?」
みんなの攻撃に気を取られたティフォンの隙を突き、僕は渾身の力でその巨大な眉間にランスを突き立てた。
「ギル! 皆さん! 離れてください!」
「っ! はい!」
シアの言葉に、僕達はティフォンから飛び退いた。
その瞬間。
「【フリージア】!」
「【ドラゴニックフレア】!」
青白い炎の竜がティフォンに巻きついてその全身を焦がし、咲き乱れる氷の結晶の花がそれら全てを包み込む。
シアとマリガン卿が放つ、氷と炎の最上級魔法の競演に、僕達は思わず目を奪われた。
そして。
――パキン。
戦術級魔獣であるティフォンの身体が粉々に砕け散り、それと共に黒の魔法陣が消滅した。
それを見て、僕は一気に駆け出した。
もちろん、愛する
「シア!」
「ギル!」
同じく飛び込んでくる彼女を、僕は精一杯抱きしめた。
「あなたは本当にすごい! すごい
「ふふ、違いますよ? 本当にすごいのはあなたです。あの魔獣を倒せたのは……この王都を救えたのは、これまであなたがしてきたこと、その全てが結果に繋がったからです」
全力でシアを褒め称えると、彼女はクスリ、と笑いながらそう言って周りを見渡す。
そこには……僕がこれまで関わってきた人達が、柔らかい笑みを
「あなたは……ギルは、本当にすごい御方。私を救い、皆さんを救い、王都を救いました。私はあなたの婚約者になれて、本当に幸せです……」
そう言うと、シアは女神ディアナですら見惚れてしまうほどの、最高の笑顔を見せてくれた。
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