戦術級魔獣、召喚

「ふう……とりあえず、これで全部か」


 最後の一人をランスで串刺しにして投げ捨てると、僕は息を吐きながら呟いた。


「どうやらそのようですな。騎士団と合流した後、本当に教団の連中がいないか、もう一度この周辺を隈なく捜索しましょう」

「そうだな」


 ゲイブの言葉に、僕は頷く。


 すると。


「ん? あれはジェイクか……って!?」


 馬を走らせながらこちらへと向かってくるジェイクを見て、僕は思わず目を見開いた。

 だ、だってジェイクの後ろには、シアが乗っていたから。


 しかも! あああああ……! 僕のシアにあんなに密着して!


「ギルー!」

「シ、シア!」


 馬が僕達の目の前で急停止するなり勢いよく飛び降りるシアを、僕は慌てて受け止めた。


「ギル! ギル!」

「シア! 何かあったのですか!?」


 抱きつきながら何度も僕の名前を呼ぶシアに、心配になって尋ねる。


「私は何もありません。それより、ギルは無事ですか?」

「はい、もちろんです。ヘカテイア教団の連中も、僕とゲイブで全て片付けました」

「そ、そうですか……よかったあ……」


 僕の言葉を受け、シアが安堵の表情を浮かべた。


「それでジェイク、とりあえず今はシアと密着していたことについて何も言わないでいてやるが、急にこちらへやって来てどうしたんだ?」

「ヒイ!? ぼ、坊ちゃま、そんな目で睨まないでくださいよ……」


 僕は射殺すような視線を向けると、ジェイクがおののいた。


「早く答えろ」

「ハア……本当に、フェリシア様のこととなると人が変わるんだから……とりあえず、広場の負傷者について全て治療を終えましたので、俺がフェリシア様を馬でお連れした次第です。もうすぐ、他のみんなも来ますよ」

「っ!?」


 ジェイクの説明に、僕は思わずシアを見る。


「シ、シア、あの広場には多数の死傷者がいたと思いますが……」

「はい。息のあった患者の方々は、私の回復魔法で全て一命をとりとめました。その後の治療などについては、王宮と女神教会から駆けつけた方々にお任せしております」


 そう言って、ニコリ、と微笑むシア。

 あれだけの負傷者を、全員救ったなんて……。


「ギル……だからこれ以上、あなたが気に病む必要はありません。あなたはただ、ヘカテイア教団を倒すことに集中なさってください」


 ああ、そうか……。

 シアは僕の心を汲み取って、それでこんなにも頑張ってくださったんですね……。


 この王都の惨状を招いてしまったことに罪悪感を覚えていた、僕の心を軽くするために……。


「あ……」

「シア……あなたって女性ひとは……!」

「ふふ……ギルのお役に立てて、よかった……」


 感極まった僕はシアを強く抱きしめる。

 彼女もまた、僕の髪を優しく撫でてくれた。


 その時。


「う……うう……」

「チッ……まだ息のある奴がいたか」


 うつ伏せに倒れながらうめき声を上げる教団の男を見て、僕は舌打ちをした。

 まあいい、すぐにとどめを刺そう。


 そう思い、僕はシアからそっと離れて男のところへ足を踏み出した。


 その瞬間。


「「「「っ!?」」」」


 突然、地面に魔法陣が浮かび上がり、男の身体が浮かび上がった。


「こ、これは……」

「ぐ、ぐぐ……これ、で……貴様等はおわ、り……」

「させません! 【フローズ……ッ」

「シア!?」


 男を阻止しようと魔法を放とうとするが、シアはよろめいてしまい、僕はすぐに彼女を抱き留めた。


「だ、大丈夫ですか!?」

「ギ、ギル、ごめんなさい……」


 シアが申し訳なさそうな表情をしながら謝る。


「いいんです! あなたは何人もの人々を救うため、魔法を酷使したんです! それより、無理をしないでください!」

「あ……ふふ、ギルには全部お見通しですね……」


 そう言って、シアは苦笑した。

 本当に、僕の婚約者は無理をして……。


 ――べき、めき、ぐじゅ。


「「っ!?」」


 聞いたこともないような音が響き、僕もシアも男へと視線を戻すが、あまりの光景に声を失う。

 だって……男は、二つ、さらに二つと折りたたまれているのだから。


 そうして、直径三十センチほどの肉の球体と化すと。


「っ!? あれは!?」


 黒の魔法陣から巨大な髭を生やした男の頭が出現し、その肉の球体を丸飲みした。

 そして僕は、あの巨大な男の正体を知っている。


 物語の終盤でヘカテイア教団の連中が召喚した、戦術級魔獣のうちの一つ。


 ――大巨人、“ティフォン”。


 だ、だが、小説の中ではティフォンはラスボス前の一戦で、教皇が召喚したもの。

 というか、教皇でもない限りこれだけの魔獣を召喚するなんてことは、できるはずがない。


「っ!? ひょっとして、そういうことなのか!?」

「ギル!?」


 それに思い至った僕が叫ぶと、シアが心配そうな表情で僕の名前を呼んだ。

 だけど、そうであるとしか考えられない。


 つまり。


「……この王都に、ヘカテイア教団の教皇がいる」

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